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2017年10月

2017年10月16日 (月)

【ミサイル攻撃の基礎知識11】核爆発で何が起きるか(#1345)

ここまで、弾道ミサイル攻撃下における3つのシチュエーションを小説形式で書いてきましたが、小説はここまでにします。

バッドエンドはいくらでも想像できますが、それを描くことにあまり意味は無いし、胸くそ悪くなるだけです。かと言って、下手なハッピーエンドはもっと意味がありませんし。

というわけで、ここからは小説で描いたシチュエーションの解説編とします。

なお、管理人は子供の頃から広島・長崎への原爆攻撃に関する興味を持っており、手前味噌ながら、蓄積した知識は、かつて広島の平和記念資料館を訪れた際、案内の語り部と同等以上の解説ができると感じたくらいではあります。


核爆発の効果


原爆や水爆など、核爆発が起きた場合の被害は、主に下記の6つの要素によります。
■放射線
■熱線
■爆風(衝撃波)
■電磁波 (EMP)
■放射性降下物(フォールアウト)
■残留放射線

それぞれについて、ざっくりと解説します。


放射線


起爆の直後、百万分の1秒から約1分の間に、強力な中性子線やガンマ線が照射されます。

中性子線やガンマ線は生物の細胞を破壊して、死亡または重篤な障害を発生させるため、爆心地付近で強力な放射線の直射を受けた生物は、瞬時に死滅します。

広島型原爆の場合は、爆心から1km程度で直射またはそれに近い状態だった人は、致死量をはるかに超える放射線を瞬時に浴びました。

中性子線やガンマ線を効果的に防ぐ物質は、身の回りのものでは水だけと言っても良いでしょう。厚いコンクリート壁は、中性子線やガンマ線をある程度減衰させる効果があります。


熱線


起爆直後には、いわゆる『火球』が発生します。

広島型原爆の場合、火球は起爆1秒後に直径約280mに拡大し、その中心温度は約100万℃、表面は太陽の表面とほぼ同じ6000℃で、猛烈な輻射熱により、爆心付近の地表温度は3000~4000℃に達しました。

広島では、原爆は『原爆ドーム』のほぼ直上577mで起爆しましたが、火球は最終的に地表にまで達して、猛烈な圧力と高温で、爆心付近のすべての可燃物を瞬時に焼き尽くしました。人間は、文字通り“蒸発”したような例もあったのです。

火球からの輻射熱により、爆心から1.2km程度以下で直射を受けた人間は瞬間的に内臓にまで達する重度の火傷を負い、その多くが死亡しました。

3~4km離れていても、木材が瞬時に黒こげになるレベルで、ほとんどの可燃物が発火、人間の素肌は重い火傷を負いました。


爆風


次に起きるのが、爆風(衝撃波)です。

その速度は音速を超えて秒速440m程度に達し、頑丈な鉄筋コンクリート造りなどの建物以外は、ほとんどのものを吹き飛ばします。破壊され、吹き飛ばされたものは超音速で他のものに衝突し、連鎖的に破壊を拡大します。

頑丈な建物でも、窓などの開口部などから爆風が突入し、内部を破壊します。

広島の『原爆ドーム』は、ほぼ直上のごく近くから爆風を受けたため、屋根と床のほとんどが吹き抜けてしまったものの、垂直の壁だけが辛うじて持ちこたえた状態です。

なお爆心付近は、衝撃波の拡散によって気圧が極端に低くなるため、次の瞬間には爆心に向かって吹き戻す、逆向きの爆風も発生します。 爆心に立ち上るキノコ雲は、この吹き戻しの爆風が爆心で衝突して起きる、強い上昇気流によるものです。

爆風の威力は、爆発の規模によって大きく異なります。現代の核爆弾は、広島型の数倍から数十倍以上の威力を持っていると考えられます。


電磁波


核爆発に伴って、強力な電磁波が発生します。

これはEMP(Erectric Magnetic Pulse)と呼ばれ、これを受けた電子部品は不可逆的に損傷します。すなわち、現代ではあらゆるものに搭載されてる集積回路が一瞬で全滅してしまい、交換する以外に対処方法は無いのです。

広島・長崎の時代には集積回路が存在しなかったので大きな問題となりませんでしたが、あらゆる機器やインフラに集積回路が使われている現代社会では、EMPこそが恐ろしい問題です。

地表近くでの核爆発では、EMPが影響する範囲はある程度局限されますが、上空数万mで核爆発を起こした場合、地上への被害は事実上無いものの、強力なEMPの影響が地表付近の起爆よりもはるかに広い範囲、爆発の規模によっては国家レベルの範囲に影響し、電磁波防護されていないあらゆる電子機器を破壊します。

コンピューター制御によるほとんどの機器やインフラが停止し、迅速な復旧もできなくなった時に何が起きるかは、想像を絶します。


放射性降下物


地表付近で核爆発が起きると、放射能汚染された物質が上空に大量に吹き上げられ、後にそれが広い範囲に降り注ぎます。これを放射性降下物(フォールアウト)と呼びます。

典型的なものが、広島に降った『黒い雨』です。これは核爆発と大火災で発生した強い上昇気流が積乱雲を発生させ、局地的な豪雨となったものです。 その際、上空に吹き上げられた、放射能汚染された塵埃が雨に混ざって降り、黒い雨となりました。この雨により、直接の被害が無かった地域にまで、放射能汚染が広がったのです。

福島第一原発事故の後、上空に吹き上げられた放射性物質が自然の雨に混ざって降ったのも、フォールアウトの一種と言えます。

雨が降らなくても、上空の気流に乗って拡散した放射性物質が広い範囲に降下します。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、気流に乗った放射性物質がヨーロッパの広い範囲に拡散・降下して汚染が広がりました。


残留放射線


地表付近での核爆発後は、一帯の地物が強い放射能を帯びますので、その地域に留まったり、外から入って来た人に対しての放射線障害が拡大します。

このため、十分な防護装備が無い場合は外部から救援に向かうことも難しくなり、被害を拡大することになります。

■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。


2017年10月13日 (金)

【ミサイル攻撃の基礎知識10】シミュレーション・X day03(#1344)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)からの続きです。


破綻


近年は外国人観光客が必ず立ち寄ると言われる人気スポットとなった、渋谷駅前のスクランブル交差点にも、“その時”は突然やってきた。

午後8時過ぎ、その人混みがピークを迎えようとしていた時、街の雑踏を圧するような音量であの警報音が鳴り響き、交差点を見下ろす巨大スクリーンに、黒字に白い文字が浮き上がった。

『ミサイル発射。ミサイル発射。この地域に着弾の恐れがあります。』

青信号で交差点を渡りかけた人々が巨大ビジョンを呆けたように見上げて立ち止まり、ポケットやバッグの中で不気味なうなりを上げるスマホを取り出しては、それが訓練でも間違いでもないことを確かめた。次の瞬間、海外では「なぜ誰もぶつからないのか不思議」と言われる秩序が、一気に破綻しはじめた。

スクランブル交差点上は、呆然と立ちすくむ者、急に走り出す者、逆方向に戻る者、完全に混乱して右往左往する者が入り交じり、ぶつかり、押し退け合い、転び、叫び、つかみ合った。

歩行者信号が赤になってもパニック化した群衆は道路上に留まり、我先に突っ込もうとする車のホーン音が渦巻いた。

多くの者は広大な渋谷地下駅へ逃げ込もうとして階段に殺到したが、混乱を極めた階段の前は、ほとんど前へ進むことができなくなっていた。


衝突


道玄坂では、スマホの警報を聞いた人々が坂の両側に並ぶ店から飛び出して車道上にまであふれ、ここでもホーンの嵐になった。

一部の者は、道玄坂上の首都高3号線の高架下や、国道246号を挟んだセルリアンタワーに逃げ込もうとして坂を駆け上がり、また一部はマークシティビルに続く登り坂に殺到し、また一部は道玄坂下のビル群に逃げ込もうと坂を駆け下り、無秩序の流れがあちこちで衝突した。

公園通りでは、坂下のビル群に向かおうとする者と、坂上の代々木公園やNHKに逃げ込もうとする者の流れが衝突した。

ビルの上階にいた者は、その多くが地下を目指した。エレベーターは無理に乗り込もうとする者で定員超過となって動かず、階段に殺到した。

しかしほとんどは階段にたどり着くことさえかなわず、幸運にも階段を降りられても、すでに地下は人であふれ、殺到する者と押し戻そうとする者が衝突し、絶叫が渦巻いた。

誰もが地下、そし“頑丈な”遮蔽物を求めて駆けた。しかし、今回はミサイルの部品が降って来るだけではない。誰もリアルにイメージはできなかったが、核爆発に晒される可能性が高いのだ。


理由


日本本土へのミサイル攻撃に、この時間が選ばれたのには理由があった。

多くの人が自宅、学校やオフィスにおらず、逃げ場が少なく危険物にあふれた繁華街に最も出ている。そしてまだ日が暮れたばかりで、夜明けまで長い時間の暗闇が続く時間帯。

暗闇はそれだけで避難も対処も救援も遅らせ、混乱に拍車をかけて、自動的に被害を拡大する。最も“効率的”に被害を極大化する時間帯、それが今なのだ。

そんなことに気付く者はほとんどいなかったが、少なくとも攻撃者の目論見は、おそらく想像した以上の効果を上げつつあった。

残された時間は、あと2分もない。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2017年10月 1日 (日)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)

【ミサイル攻撃の基礎知識08】シミュレーション・X day01(#1342)からの続きです。


呼集


玲奈は、その時東京郊外の自宅にいなかった。

現在は米軍軍属となって米空軍横田基地に勤務している陸自時代の友人を訪ねて、東京の福生市内にいた。

彼女の部屋があるマンションの三階からは基地こそ見えないが、航空機の離発着音がほど近くから聞こえるくらいの場所だ。

そこで玲奈と彼女、そして彼女の友人の米空軍女性メディック(衛生兵)の三人で彼女の手料理を堪能したあと、食後のコーヒーを楽しんでいた。

午後8時過ぎ。基地の方角から、腹の底に響くような重々しいサイレンの音が突然、沸き上がった。三人には、それが何を意味しているのか説明の必要は無かった。皆が弾かれたように立ち上がると、それぞれの行動を始めた。

ほぼ同時に、玲奈以外のスマホから聴き慣れないアラームが鳴り響いた。ふたりは自動配信されたメールを開いて文面を一瞥すると、それでも息を呑んだ。彼女が叫ぶように言う。
「非常呼集だわ!」

メディックは目をむくと、普段の可憐は雰囲気とは似つかない、下品な言葉が口をついた。
「Shit! The command said this is not a drill! What's a hell!」(くそっ!司令部は『これは訓練ではない』って!なんてことなの!)

数秒後、玲奈のスマホからはJアラートの警報音が鳴り響いた。玲奈は文面を見ることもせず、衛の携帯へ何度目かの発信をしたが、やはりもう、繋がる気配もなかった。

でもそれは想定されていた事態であり、衛とは普段からどう行動すべきか話し合っている。だから、衛もやれることはすべてやっているはずだ。


轟音


米軍人であるメディックは、すぐに基地へ向かわなければならないが、軍属の彼女は、その必要はない。

コーデュラナイロン製のグリーンの大きなダッフルバッグを肩にかけて、厳しい表情で玄関に向かうメディックの背中に、玲奈は思わず、日本語で言った。
「どうか、ご無事で!」

すると彼女は靴を履きながら半分だけ振り向くと、軽くウインクをして日本語で言った。
「アナタタチモネ!」

その時、基地の方角から、雷を何百もまとめて落としたような轟音が押し寄せてきた。彼女が基地の方角のカーテンを開けると、思ったよりはるかに近い場所から、オレンジ色の光跡が真っ暗な西の空に向かって伸びて行くのが見えた。

それは数秒おきに次々に輝き、6発を数えた。メディックは玄関のドアを開けながらまた振り向くと、轟音に負けずに、叫ぶように言った。
「That's our patriots.It will save us!」(米軍のペトリオット(ミサイル)よ。私たちを守ってくれるわ!)

でも、最後にひとこと付け加えると、きびすを返して駆け出して行った。
「May be!」(たぶん、ね!)

残された玲奈と彼女は、状況を整理した。横田基地のペトリオットが発射されたということは、ミサイルの迎撃可能範囲からして、基地から半径約30kmの範囲にミサイルが着弾する可能性があるということで、それは核弾頭である可能性が高いのだ。

極東における米空軍の拠点である横田基地は、相手にしてみれば“最優先目標”のひとつだから、最初に狙われて当然だ。だから防御体制も厳重を極めているが、果たして。

弾道ミサイルの命中精度がどれほどのものかわからない以上、下手に逃げ回っても安全性が高まるとは限らないし、それ以前に、そんな時間は無い。ミサイルが迎撃をすりぬけて着弾するとしたら、残された時間はもう3分も無いのだ。


待避


“最悪の事態”になったら、もう何をしても手遅れかもしれない。 でも、生き残れる可能性がある限り、今できることを全力でやるだけだ。怖れおののいている暇は無い。

ふたりはリビングからバスルームに向かった。地震でも竜巻でも、そしてミサイル攻撃でも、この家の中でそこが一番安全であることは、普段から想定している。

重要なポイントは、爆風が突入してくるはずの窓からの動線に対して、バスルームの入り口は横を向いているということだ。

もしここが一般家屋で地下室でもあれば、そこが一番安全だ。しかし爆風による建物の倒壊と、その後高い確率で起きる火災を考えると、脱出できなくなる可能性も高い。

彼女はバスルームに入る前にエントランスへ行ってレインブーツを二足とリュックサックを、クロゼットから取り出した。そして玄関ドアを開くと、ドアクローザーで閉まらないように、ドアと枠の間にスニーカーを押し込んだ。このマンションを爆風が襲ったら、部屋の中を吹き抜けさせて圧力を逃がすためだ。

彼女はリュックサックとレインブーツを、バスルームに持ち込んだ。緑と茶がまだらになった陸自迷彩色のリュックの中には、ふたりで節約すれば2日分になる水と食品やトランジスタラジオ、強力なLEDライトなど通常の防災備品に加え、放射線環境下を移動しなければならない場合に備えて、ツナギタイプのレインウェアと大型の防塵マスクが、それぞれふたり分入っている。

もしここから脱出できなくなってもしばらくは持ちこたえられるし、脱出する際のリスクも、多少は抑えられるかもしれない。

ふたりは、風呂の残り湯が張ってあるバスタブの脇に、身を寄せて伏せた。 残された時間でできることは、ここまでだ。


祈り


玲奈は、すぐ隣で唇を噛んで蒼白な表情の彼女に、少し微笑みながら、言った。
「いろいろ、ありがとね」

彼女は、玲奈の眼をじっと見つめ返したが、言葉が出ない。それでも、しっかりと大きく、頷いた。玲奈の言葉から、深い意味を汲み取ったのだ。

それは覚悟の言葉でもあったが、決して諦めた訳ではない。玲奈は続けた。
「きっと、大丈夫。幸運を、祈りましょう」


【つづく】


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

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