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日記・コラム

2017年10月30日 (月)

【ミサイル攻撃の基礎知識12】できることはごく僅か(#1346)

前回は、核爆発の際に起きることをざっくりとまとめました。今回からは、小説の登場人物の行動を例に、核爆発への対処方法を考えます。


大前提として


これは言わずもがななのですが、実際に核攻撃を受けた場合、爆心から比較的近い距離で被爆したら、何をやってもほとんど無駄、というのが現実ではあります。

爆心付近では、深さ数十メートル以上で、NBC(核、生物、化学兵器)防護性能のある専用シェルター内にでもいない限り、生き残ることはほとんど不可能でしょう。

市販の家庭用シェルターなどではひとたまりもありませんし、仮に最初の爆発を生き残っても、その後の大火災や濃密な残留放射線から生き残ることは困難です。

これから述べる対策は、あくまで爆心からある程度の距離があった場合に効果を発揮”するかもしれない”というものです。

その『ある程度の距離』とは、核爆発の規模や周囲の地形、地物などの状況に左右されるもので、何km離れたら助かる、という話ではありません。

現代の核爆弾は、15〜20キロトン(TNT火薬1万5千〜2万トンと同等の爆発エネルギー量)と言われる広島型原爆の何十倍、何百倍ものエネルギーを放出します。

それはもちろん、爆風の威力だけでなく、熱線や放射線の威力もはるかに大きい、ということでもあります。

マニアックなことに触れれば、最先端の核爆弾は、放射線、熱線、爆風の威力が用途によってある程度コントロールされているものもあります。

しかし、少なくとも現在の我が国に飛んでくるかもしれない核爆弾は、そういうタイプでは無いことは確かです。


ある程度の距離が前提


前記事で述べた通り、核爆発において最初に放出されるのが放射線です。それとほぼ同時に火球が発生し、超高温の熱線が放射されます。そして、音速を超える爆風(衝撃波)と、吹き飛ばされたものが襲ってきます。

広島や長崎で、原爆が『ピカドン』と言われた所以です。火球が放つ閃光がピカっと光った直後に、爆風がドンと襲って来たわけです。

まず、この段階をいかに生き残るか。繰り返しますが、これから述べる方法は、”たまたま”あなたの居場所が爆心からかなりの距離があり、放射線も熱線も爆風も、ある程度減衰した状態で効果を発揮するものです。


ある事実から学ぶ


以下は、広島で起きたひとつの事実です。

爆心から何kmも離れたある学校では、始業前に(広島原爆の起爆は午前8時15分)、教員が職員室に全員集まっていました。

その時、広島市の中心部の方角で、強烈な閃光が発せられました。『ピカドン』のピカです。すると、ひとりを除いた全員が、「何事だ?」とばかりに席を立って窓を見ました。

その数秒後、爆風が襲いました。コンクリート造りの校舎自体は爆風に耐えたものの、窓などの開口部から突入した超音速の爆風が室内を吹き抜けて立ち上がった全員を吹き飛ばし、全滅しました。

その中でひとりだけ生き残った教員は、閃光を見た瞬間、反射的に窓の下に身を伏せたのです。

その教員は、中国戦線での従軍経験があったので、攻撃(らしきもの)を受けたと判断した瞬間、まず遮蔽物の陰に身を伏せるという行動が身についていたために、爆風に吹き飛ばされず、ガラスなどの破片も浴びなかったのです。

加えて、当時は全く意識されていなかったことですが、コンクリート壁の陰に伏せたことで、起爆後1分ほどの間に照射される、強い放射線もかなり遮蔽されていたはずです。

この人の行動が、不時の核攻撃における唯一絶対の対処方法と言っても過言ではありませんが、これも、熱線が致命的ではなくなり、爆風がある程度減衰する距離と、それに耐えた校舎という遮蔽物があってこそだったわけです。

次回は、この事実を前提として、小説の中での防護方法を解説します。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2017年10月16日 (月)

【ミサイル攻撃の基礎知識11】核爆発で何が起きるか(#1345)

ここまで、弾道ミサイル攻撃下における3つのシチュエーションを小説形式で書いてきましたが、小説はここまでにします。

バッドエンドはいくらでも想像できますが、それを描くことにあまり意味は無いし、胸くそ悪くなるだけです。かと言って、下手なハッピーエンドはもっと意味がありませんし。

というわけで、ここからは小説で描いたシチュエーションの解説編とします。

なお、管理人は子供の頃から広島・長崎への原爆攻撃に関する興味を持っており、手前味噌ながら、蓄積した知識は、かつて広島の平和記念資料館を訪れた際、案内の語り部と同等以上の解説ができると感じたくらいではあります。


核爆発の効果


原爆や水爆など、核爆発が起きた場合の被害は、主に下記の6つの要素によります。
■放射線
■熱線
■爆風(衝撃波)
■電磁波 (EMP)
■放射性降下物(フォールアウト)
■残留放射線

それぞれについて、ざっくりと解説します。


放射線


起爆の直後、百万分の1秒から約1分の間に、強力な中性子線やガンマ線が照射されます。

中性子線やガンマ線は生物の細胞を破壊して、死亡または重篤な障害を発生させるため、爆心地付近で強力な放射線の直射を受けた生物は、瞬時に死滅します。

広島型原爆の場合は、爆心から1km程度で直射またはそれに近い状態だった人は、致死量をはるかに超える放射線を瞬時に浴びました。

中性子線やガンマ線を効果的に防ぐ物質は、身の回りのものでは水だけと言っても良いでしょう。厚いコンクリート壁は、中性子線やガンマ線をある程度減衰させる効果があります。


熱線


起爆直後には、いわゆる『火球』が発生します。

広島型原爆の場合、火球は起爆1秒後に直径約280mに拡大し、その中心温度は約100万℃、表面は太陽の表面とほぼ同じ6000℃で、猛烈な輻射熱により、爆心付近の地表温度は3000~4000℃に達しました。

広島では、原爆は『原爆ドーム』のほぼ直上577mで起爆しましたが、火球は最終的に地表にまで達して、猛烈な圧力と高温で、爆心付近のすべての可燃物を瞬時に焼き尽くしました。人間は、文字通り“蒸発”したような例もあったのです。

火球からの輻射熱により、爆心から1.2km程度以下で直射を受けた人間は瞬間的に内臓にまで達する重度の火傷を負い、その多くが死亡しました。

3~4km離れていても、木材が瞬時に黒こげになるレベルで、ほとんどの可燃物が発火、人間の素肌は重い火傷を負いました。


爆風


次に起きるのが、爆風(衝撃波)です。

その速度は音速を超えて秒速440m程度に達し、頑丈な鉄筋コンクリート造りなどの建物以外は、ほとんどのものを吹き飛ばします。破壊され、吹き飛ばされたものは超音速で他のものに衝突し、連鎖的に破壊を拡大します。

頑丈な建物でも、窓などの開口部などから爆風が突入し、内部を破壊します。

広島の『原爆ドーム』は、ほぼ直上のごく近くから爆風を受けたため、屋根と床のほとんどが吹き抜けてしまったものの、垂直の壁だけが辛うじて持ちこたえた状態です。

なお爆心付近は、衝撃波の拡散によって気圧が極端に低くなるため、次の瞬間には爆心に向かって吹き戻す、逆向きの爆風も発生します。 爆心に立ち上るキノコ雲は、この吹き戻しの爆風が爆心で衝突して起きる、強い上昇気流によるものです。

爆風の威力は、爆発の規模によって大きく異なります。現代の核爆弾は、広島型の数倍から数十倍以上の威力を持っていると考えられます。


電磁波


核爆発に伴って、強力な電磁波が発生します。

これはEMP(Erectric Magnetic Pulse)と呼ばれ、これを受けた電子部品は不可逆的に損傷します。すなわち、現代ではあらゆるものに搭載されてる集積回路が一瞬で全滅してしまい、交換する以外に対処方法は無いのです。

広島・長崎の時代には集積回路が存在しなかったので大きな問題となりませんでしたが、あらゆる機器やインフラに集積回路が使われている現代社会では、EMPこそが恐ろしい問題です。

地表近くでの核爆発では、EMPが影響する範囲はある程度局限されますが、上空数万mで核爆発を起こした場合、地上への被害は事実上無いものの、強力なEMPの影響が地表付近の起爆よりもはるかに広い範囲、爆発の規模によっては国家レベルの範囲に影響し、電磁波防護されていないあらゆる電子機器を破壊します。

コンピューター制御によるほとんどの機器やインフラが停止し、迅速な復旧もできなくなった時に何が起きるかは、想像を絶します。


放射性降下物


地表付近で核爆発が起きると、放射能汚染された物質が上空に大量に吹き上げられ、後にそれが広い範囲に降り注ぎます。これを放射性降下物(フォールアウト)と呼びます。

典型的なものが、広島に降った『黒い雨』です。これは核爆発と大火災で発生した強い上昇気流が積乱雲を発生させ、局地的な豪雨となったものです。 その際、上空に吹き上げられた、放射能汚染された塵埃が雨に混ざって降り、黒い雨となりました。この雨により、直接の被害が無かった地域にまで、放射能汚染が広がったのです。

福島第一原発事故の後、上空に吹き上げられた放射性物質が自然の雨に混ざって降ったのも、フォールアウトの一種と言えます。

雨が降らなくても、上空の気流に乗って拡散した放射性物質が広い範囲に降下します。旧ソ連のチェルノブイリ原発事故では、気流に乗った放射性物質がヨーロッパの広い範囲に拡散・降下して汚染が広がりました。


残留放射線


地表付近での核爆発後は、一帯の地物が強い放射能を帯びますので、その地域に留まったり、外から入って来た人に対しての放射線障害が拡大します。

このため、十分な防護装備が無い場合は外部から救援に向かうことも難しくなり、被害を拡大することになります。

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2017年10月13日 (金)

【ミサイル攻撃の基礎知識10】シミュレーション・X day03(#1344)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)からの続きです。


破綻


近年は外国人観光客が必ず立ち寄ると言われる人気スポットとなった、渋谷駅前のスクランブル交差点にも、“その時”は突然やってきた。

午後8時過ぎ、その人混みがピークを迎えようとしていた時、街の雑踏を圧するような音量であの警報音が鳴り響き、交差点を見下ろす巨大スクリーンに、黒字に白い文字が浮き上がった。

『ミサイル発射。ミサイル発射。この地域に着弾の恐れがあります。』

青信号で交差点を渡りかけた人々が巨大ビジョンを呆けたように見上げて立ち止まり、ポケットやバッグの中で不気味なうなりを上げるスマホを取り出しては、それが訓練でも間違いでもないことを確かめた。次の瞬間、海外では「なぜ誰もぶつからないのか不思議」と言われる秩序が、一気に破綻しはじめた。

スクランブル交差点上は、呆然と立ちすくむ者、急に走り出す者、逆方向に戻る者、完全に混乱して右往左往する者が入り交じり、ぶつかり、押し退け合い、転び、叫び、つかみ合った。

歩行者信号が赤になってもパニック化した群衆は道路上に留まり、我先に突っ込もうとする車のホーン音が渦巻いた。

多くの者は広大な渋谷地下駅へ逃げ込もうとして階段に殺到したが、混乱を極めた階段の前は、ほとんど前へ進むことができなくなっていた。


衝突


道玄坂では、スマホの警報を聞いた人々が坂の両側に並ぶ店から飛び出して車道上にまであふれ、ここでもホーンの嵐になった。

一部の者は、道玄坂上の首都高3号線の高架下や、国道246号を挟んだセルリアンタワーに逃げ込もうとして坂を駆け上がり、また一部はマークシティビルに続く登り坂に殺到し、また一部は道玄坂下のビル群に逃げ込もうと坂を駆け下り、無秩序の流れがあちこちで衝突した。

公園通りでは、坂下のビル群に向かおうとする者と、坂上の代々木公園やNHKに逃げ込もうとする者の流れが衝突した。

ビルの上階にいた者は、その多くが地下を目指した。エレベーターは無理に乗り込もうとする者で定員超過となって動かず、階段に殺到した。

しかしほとんどは階段にたどり着くことさえかなわず、幸運にも階段を降りられても、すでに地下は人であふれ、殺到する者と押し戻そうとする者が衝突し、絶叫が渦巻いた。

誰もが地下、そし“頑丈な”遮蔽物を求めて駆けた。しかし、今回はミサイルの部品が降って来るだけではない。誰もリアルにイメージはできなかったが、核爆発に晒される可能性が高いのだ。


理由


日本本土へのミサイル攻撃に、この時間が選ばれたのには理由があった。

多くの人が自宅、学校やオフィスにおらず、逃げ場が少なく危険物にあふれた繁華街に最も出ている。そしてまだ日が暮れたばかりで、夜明けまで長い時間の暗闇が続く時間帯。

暗闇はそれだけで避難も対処も救援も遅らせ、混乱に拍車をかけて、自動的に被害を拡大する。最も“効率的”に被害を極大化する時間帯、それが今なのだ。

そんなことに気付く者はほとんどいなかったが、少なくとも攻撃者の目論見は、おそらく想像した以上の効果を上げつつあった。

残された時間は、あと2分もない。


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2017年10月 1日 (日)

【ミサイル攻撃の基礎知識09】シミュレーション・X day02(#1343)

【ミサイル攻撃の基礎知識08】シミュレーション・X day01(#1342)からの続きです。


呼集


玲奈は、その時東京郊外の自宅にいなかった。

現在は米軍軍属となって米空軍横田基地に勤務している陸自時代の友人を訪ねて、東京の福生市内にいた。

彼女の部屋があるマンションの三階からは基地こそ見えないが、航空機の離発着音がほど近くから聞こえるくらいの場所だ。

そこで玲奈と彼女、そして彼女の友人の米空軍女性メディック(衛生兵)の三人で彼女の手料理を堪能したあと、食後のコーヒーを楽しんでいた。

午後8時過ぎ。基地の方角から、腹の底に響くような重々しいサイレンの音が突然、沸き上がった。三人には、それが何を意味しているのか説明の必要は無かった。皆が弾かれたように立ち上がると、それぞれの行動を始めた。

ほぼ同時に、玲奈以外のスマホから聴き慣れないアラームが鳴り響いた。ふたりは自動配信されたメールを開いて文面を一瞥すると、それでも息を呑んだ。彼女が叫ぶように言う。
「非常呼集だわ!」

メディックは目をむくと、普段の可憐は雰囲気とは似つかない、下品な言葉が口をついた。
「Shit! The command said this is not a drill! What's a hell!」(くそっ!司令部は『これは訓練ではない』って!なんてことなの!)

数秒後、玲奈のスマホからはJアラートの警報音が鳴り響いた。玲奈は文面を見ることもせず、衛の携帯へ何度目かの発信をしたが、やはりもう、繋がる気配もなかった。

でもそれは想定されていた事態であり、衛とは普段からどう行動すべきか話し合っている。だから、衛もやれることはすべてやっているはずだ。


轟音


米軍人であるメディックは、すぐに基地へ向かわなければならないが、軍属の彼女は、その必要はない。

コーデュラナイロン製のグリーンの大きなダッフルバッグを肩にかけて、厳しい表情で玄関に向かうメディックの背中に、玲奈は思わず、日本語で言った。
「どうか、ご無事で!」

すると彼女は靴を履きながら半分だけ振り向くと、軽くウインクをして日本語で言った。
「アナタタチモネ!」

その時、基地の方角から、雷を何百もまとめて落としたような轟音が押し寄せてきた。彼女が基地の方角のカーテンを開けると、思ったよりはるかに近い場所から、オレンジ色の光跡が真っ暗な西の空に向かって伸びて行くのが見えた。

それは数秒おきに次々に輝き、6発を数えた。メディックは玄関のドアを開けながらまた振り向くと、轟音に負けずに、叫ぶように言った。
「That's our patriots.It will save us!」(米軍のペトリオット(ミサイル)よ。私たちを守ってくれるわ!)

でも、最後にひとこと付け加えると、きびすを返して駆け出して行った。
「May be!」(たぶん、ね!)

残された玲奈と彼女は、状況を整理した。横田基地のペトリオットが発射されたということは、ミサイルの迎撃可能範囲からして、基地から半径約30kmの範囲にミサイルが着弾する可能性があるということで、それは核弾頭である可能性が高いのだ。

極東における米空軍の拠点である横田基地は、相手にしてみれば“最優先目標”のひとつだから、最初に狙われて当然だ。だから防御体制も厳重を極めているが、果たして。

弾道ミサイルの命中精度がどれほどのものかわからない以上、下手に逃げ回っても安全性が高まるとは限らないし、それ以前に、そんな時間は無い。ミサイルが迎撃をすりぬけて着弾するとしたら、残された時間はもう3分も無いのだ。


待避


“最悪の事態”になったら、もう何をしても手遅れかもしれない。 でも、生き残れる可能性がある限り、今できることを全力でやるだけだ。怖れおののいている暇は無い。

ふたりはリビングからバスルームに向かった。地震でも竜巻でも、そしてミサイル攻撃でも、この家の中でそこが一番安全であることは、普段から想定している。

重要なポイントは、爆風が突入してくるはずの窓からの動線に対して、バスルームの入り口は横を向いているということだ。

もしここが一般家屋で地下室でもあれば、そこが一番安全だ。しかし爆風による建物の倒壊と、その後高い確率で起きる火災を考えると、脱出できなくなる可能性も高い。

彼女はバスルームに入る前にエントランスへ行ってレインブーツを二足とリュックサックを、クロゼットから取り出した。そして玄関ドアを開くと、ドアクローザーで閉まらないように、ドアと枠の間にスニーカーを押し込んだ。このマンションを爆風が襲ったら、部屋の中を吹き抜けさせて圧力を逃がすためだ。

彼女はリュックサックとレインブーツを、バスルームに持ち込んだ。緑と茶がまだらになった陸自迷彩色のリュックの中には、ふたりで節約すれば2日分になる水と食品やトランジスタラジオ、強力なLEDライトなど通常の防災備品に加え、放射線環境下を移動しなければならない場合に備えて、ツナギタイプのレインウェアと大型の防塵マスクが、それぞれふたり分入っている。

もしここから脱出できなくなってもしばらくは持ちこたえられるし、脱出する際のリスクも、多少は抑えられるかもしれない。

ふたりは、風呂の残り湯が張ってあるバスタブの脇に、身を寄せて伏せた。 残された時間でできることは、ここまでだ。


祈り


玲奈は、すぐ隣で唇を噛んで蒼白な表情の彼女に、少し微笑みながら、言った。
「いろいろ、ありがとね」

彼女は、玲奈の眼をじっと見つめ返したが、言葉が出ない。それでも、しっかりと大きく、頷いた。玲奈の言葉から、深い意味を汲み取ったのだ。

それは覚悟の言葉でもあったが、決して諦めた訳ではない。玲奈は続けた。
「きっと、大丈夫。幸運を、祈りましょう」


【つづく】


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム】です。

2017年9月15日 (金)

【ミサイル攻撃の基礎知識07】我々ができること(#1341)

2017年9月15日早朝。またもや北朝鮮の弾道ミサイルが北海道上空を航過しました。


ちょっと変わった


今回も、Jアラートのミサイル警報が、東日本の広い範囲に発表されました。

ニュースにもなっていますが、その文言が前回と少し変わっていることにお気づきでしょうか。

そのひとつが、『建物の中や地下に避難せよ』という部分。前回までは『頑丈な建物の中や地下に避難せよ』という表現でしたが、『頑丈な』がなくなりました。その理由とは。もちろん頑丈じゃなくても実は大丈夫、という意味ではありません。

要は、周りに頑丈な建物もなければ地下もない、という場所が大半のために、「どこへ避難すればいいんだ?」という声が多かったのです。

現実には、警報の発表から避難する時間はほんの数分しかないわけで、その間に避難場所を探してわざわざ屋外に出てしまうと、かえって危険です。

ですから、たとえ一般的な家屋でも、屋外にいるよりは確実に危険が少ないので、とにかく建物に入れ、という表現に変わったわけです。


その瞬間、どう動くか


ミサイル警報が発表されてからの数分間、私たちには何ができるのでしょうか。

現実には、我が国の領域に向かってミサイルが発射された場合でなければ、危険はそれほど大きくありません。あくまで、万一の場合を想定した予防的避難、と考えて良いでしょう。

しかし、とにかく時間が無い。大地震の際の初動のように、普段から“こう動こう”と考えておかなければなりません。

これまでの記事で触れた通り、最も可能性が高いのは、空中分解してコースを逸れたミサイルの破片や部品が降ってくることと、それを迎撃した場合に、さらに広い範囲に“何か”が降ってくることです。


破片の威力とは


燃料タンクやロケットエンジン、無力化された弾頭などの“大物”が降ってきても、直撃さえ避けられれば、その被害範囲は限定されます。

むしろ、細かい破片やビスなど多数の“小物”が、広い範囲にばらまかれる方が恐ろしい。


一部の民族などには、お祝いの花火代わりくらいの感じで銃を空に向けてぶっ放す文化がありますが、あの流れ弾が人に当たって被害が出ることがあります。

ライフル弾の重量は約20gくらい。それが空に向かって放たれると、上空で一旦ほとんど速度ゼロにまで減速してから、自由落下してきます。

その速度がどれくらいかというと、秒速数百メートルに達することもあるようで、強力な殺傷力を持ちます。

たった20gくらいの物体が、空気抵抗がある中をそこまで加速するわけですから、たとえビス1本でも、超高空から落ちてきたら殺傷力があるだけでなく、車のボディ程度だったら、場所によっては貫通する威力を持つわけです。

それがバラバラと降ってきたら。現実には、それが一番の脅威だと考えて良いでしょう。

ならば、そこで『生き残る』ためにはどうすれば良いかが見えてきます。


『頑丈』に越したことなし


ライフル弾は、直接射撃したとしても、普通は厚い鉄筋コンクリート壁を貫通することはありません。

ましてや、ライフル弾と重量が同じくらいだとしても、不定形で空気抵抗もさらに大きなミサイルの部品や破片が、ライフル弾以上の貫通力を持つことは無いでしょう。

ですから、まずは地下が一番安全。地上ならば、やはり鉄筋コンクリート造りなどのできる限り頑丈な建物のなるべく内側で、爆風と破片を防げる窓の無い部屋、というのが理想です。

一般的な家屋の場合は、二階よりは一階で、窓が無くて壁に囲まれた部屋が、より安全だと言えます。地震避難と同様に、風呂場やトイレも良いでしょう。

ポイントは、自分の上や周りの壁の数をできるだけ多くとること。

家にあるもので、破片などからの防護効果が最も高いもののひとつは、ベッドのマットレスです。真綿の布団も、小さな破片などからの防護効果がかなりあります。ナイロン綿でも、何重にも重ねることで防護効果がアップします。

屋外ならば、頑丈で厚い壁に身を寄せる、橋や高架の下に入ることなどで、かなり安全性が高まります。現実には、爆風や破片がどちらの方向から来るか予測しきれませんが、できればまず上方をカバーして、さらに水平方向を一方でもカバーできれば、被害を受ける方向を局限することができます。

車の中で、窓ガラスより下の部分に伏せるのも、かなり効果があるでしょう。現実には、直撃される可能性はとても低いのです。

くぼ地や溝の中に伏せるだけでも、水平方向からの危険をほとんど避けられます。あとは、自分の上に何か落ちてこないことを祈るだけです。

周りに何もなかったら、とにかく伏せること。地面にべったり伏せていれば、地上で起きる爆発の衝撃波と飛散する破片を、ほとんど受けずに済みます。

このような行動が瞬時に取れるよう、地震避難の初動と同じく、普段から『ここにいたらこうする』という行動を考えておかなければなりません。

それにしても、戦争状態でもないのにこんなことを考えなければならなくなったとは、我々はなんとも凄まじい時代と地域に生きているのだなと。

でも、それが現実です。

次回は、最悪のシナリオを考えます。


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【ミサイル攻撃の基礎知識06】Jアラート警報の意味とは(#1340)

前回記事(#1339)より続きます。

2017年8月に、北朝鮮のICBMが北海道上空を通過した時は、弾道の観測から我が国への直接的な脅威ではないと判断されて『破壊措置』、すなわち迎撃は行われませんでした。

しかしその一方で、北海道から長野県や群馬県までの広い範囲に、Jアラートによるミサイル警報が発表されました。

それは何故なのでしょうか。


何が起こるかわからない


あの状況で想定された脅威は、こういうことです。

それは、制御の失敗などで、ミサイルが正常に飛行しない可能性でした。

その場合には弾道が大きく狂って、場合によっては空中分解して、我が国の領域内に部品が降ってくることも考えられます。

あの場合でも、切り離したロケットエンジンや燃料タンクは、海上に落下するのが正常ですが(宇宙ロケットの発射時には、落下範囲には事前に警報が出され、進入が禁止されます)、例えば切り離しの失敗などで、本来と異なる弾道に入ってしまったら。

その場合は、弾頭部とは形状も重量も空気抵抗も全く異なる物体が弾道のシミュレーションとは全く異なるコースを飛ぶことになり、それが一体どこに落ちるのかは、ほとんど予測不可能なのです。

しかも、そんな場合には落下しながら空中分解したり爆発したりする可能性が高い。それが我が国の領域の手前で起こったら、恐ろしいことになります。

まず、重量や形状が大きく変わるので、さらに落下コースが変わって来ます。

そしてこれが一番恐ろしいのですが、空中分解や爆発によって、『標的』の数がいきなり増えるのです。


対処不可能?


SM3やペトリオットPAC3は、標的をレーダーで捉えて誘導されるミサイルです。

通常、1標的に対して2発のミサイルが発射されて命中の確率を上げるのですが、例えば標的が3つに分離したとしたら、突然6発のミサイルが必要になります。

レーダーは、レーダー波の反射断面積が大きな対象ほど、はっきりと捉えられます。そして弾道ミサイルで一番大きなものは燃料タンクとロケットエンジンであり、弾頭部よりはるかに大型です。

最も破壊が必要なものはもちろん弾頭部ですが、レーダーには、その他の部品の方が捉えられやすいということです。

もちろんそこはただ闇雲に撃ちまくるのではなく、標的の『脅威度判定』、すなわちどれが一番危険か、どれを優先的に迎撃するかをコンピューターが判断するわけですが、そのためのソフトウェアがどの程度の性能や精度を持つのかは防衛機密の範疇であり、わかりません。

ただ言えることは、決して”百発百中”ではない、ということ。そしてその確率は、標的の数が増えるほど下がっていきます。


迎撃成功!しかし


仮に、すべての目標に対して迎撃ミサイルが命中したとしましょう。

でも、前述した通り破片弾頭でシステムを破壊したり、運動エネルギー弾頭で”ぶち壊す”だけです。

現実はSFアニメのように派手な爆発でめでたしめでたしではなく、さらに細かくなった部品や破片が、バラバラと降ってくるのです。

それも、命中の衝撃でコースも形状も変わり、気流の影響も受けて、単体での落下時より広い範囲にバラ撒かれることになります。

そういう前提で見ると、あのミサイル警報の意味が、さらに良くわかってきます。


そういうことです


■東日本の広範囲にミサイル警報が発表された

【理由】発射に失敗した場合など、何らかの理由によって我が国の領域に落下する可能性がある場合には迎撃が行われるが、迎撃に成功した場合には、さらに広い範囲へ破片や部品の落下が想定される。

■頑丈な建物の窓の無い部屋や地下に避難せよ

【理由】落下してくるのはほとんどが破片や部品であり、そういう場所にいれば、直撃でもされなければほぼ安全。落下時の爆発と、超高速での落下による爆風や破片の飛散に備えて、窓が無い部屋でなければならない。

■落下物を見つけても絶対に近寄らずに、すぐに通報せよ

【理由】毒性のある燃料、未発火の爆薬、放射性物質、さらには化学物質や病原体が付着または飛散している可能性がある。

ということです。

でも、ここまでわかれば、身を守る方法も見えてくるわけです。

次回からは『我々に何ができるか』について考えます。


■当記事は、カテゴリ『日記・コラム』です。


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2017年9月11日 (月)

【ミサイル攻撃の基礎知識05】たとえ鉄壁の護りだとしても(#1339)

今回は、誰もが一番気になる点、弾道ミサイルは迎撃できるのかということについて考えます。


たぶんうまく行くけれど


現時点(2017年9月)における我が国の弾道ミサイル迎撃体制は、2段構えです。

まず、日本海に進出している海上自衛隊のイージス艦から発射されるSM3(Standard Missile 3)迎撃ミサイルが、ミッドコース(中間)フェイズでの迎撃を行います。

そこで撃ち漏らしたミサイルに対して、陸上からペトリオット(patriot)PAC3ミサイルが、ターミナル(終末)フェイズでの迎撃を行います。

近い将来には、米国製のTHAAD(サード Terminal High Altitude Area Defence 終末高高度防衛)ミサイルが配備される計画であり、実現すれば3段階の弾道ミサイル迎撃体制となり、さらに確実性が増します。

また、まだ計画が表明された段階ですが、将来的にはイージス艦のレーダーシステムとSM3ミサイルの陸上型、イージス・アショア(Aegis Ashore)も配備される計画で、さらに確実な迎撃が可能になるでしょう。

なお、ミサイル発射の情報は日米の情報収集衛星、日本海付近に進出した日米のイージス艦のレーダー、日韓の地上レーダーや米軍の偵察機などのネットワークによって発射直後に探知され、瞬時に共有される体制です。

弾道ミサイルに限らず、ロケットの発射時には高温ガスの噴射によって大量の赤外線が発せられるので、発射とほぼ同時に探知することが可能です。

弾道ミサイルの場合は、レーダーで弾道を観測することで、落下地域を予測することができます。弾道ミサイルは、ほぼ物理法則に従った放物線を描いて飛行(弾道飛行)するので、ロケットで上昇するブーストフェイズから慣性によるミッドコースフェイズに入った段階で、その落下地点を大まかに計算できるわけです。

これだけの体制なら、ほぼ大丈夫と考えて良いのでしょうか?


航空迎撃とは違う


弾道ミサイルの『迎撃』とは、どういうことなのでしょうか。

相手が爆撃機ならば、爆弾を落とす前に撃墜してしまえば終わりです。低空を飛んでくる巡航ミサイルなども、迎撃ミサイルや対空機関砲が命中すればおしまい。

でも、弾道ミサイルの迎撃は、それで済まないのが怖いのです。

迎撃ミサイルは、ふた通りの方法で弾道ミサイルを破壊します。

SM3ミサイルと将来配備されるTHAADミサイルは、運動エネルギー弾頭です。その名の通り命中しても爆発はせず、固く重い弾頭を超高速で直撃させることで、運動エネルギーによって破壊します。

もうひとつは、近接信管によって敵ミサイルのごく近くで爆発して、破片をまき散らして破壊する方法。ペトリオットPAC3ミサイルは、この爆発破片弾頭と運動エネルギー弾頭を併用しています。

しかし、これらの方法で完全に脅威が無くなるわけではないのです。

命中した場合でも、敵ミサイルの弾頭が爆発するとは限りません。特に核弾頭の場合は、高い確率で起爆システムを破壊して核爆発を防ぐことはできるはずですが、核物質を載せた弾頭部自体は破壊されない可能性も低くありません。

すなわち、弾道ミサイルの迎撃とは、完全に成功したとしても、あくまで弾頭を無力化して当初の目標への落下を防ぐだけ、と言っても過言では無いのです。

その結果何が起きるかというと、無力化された弾頭やその破片、場合によっては燃料タンクやロケットエンジンという大物が、目標地点の手前に“降ってくる”ということになります。

慣性による弾道飛行中に、直撃や爆発によって外部からの力が加わった物体がどのようにコースを変えるか、それも重量も形状も様々な多数の破片がどこに落ちるかは、大体このくらいの範囲という予測しかできません。

そして、ミサイルが破壊される高度が高いほどその範囲が広がり、破壊された場所によって、大きく変わってくるわけです。


あの時のこと


2017年8月、北朝鮮のICBMが北海道上空を通過しました。

あの時は、弾道のレーダー観測から我が国の領域を狙ったものではないとわかっていたことと、北海道上空での高度は500km程と、現有の装備では迎撃できない高度だったため、我が国での『破壊措置』、すなわち迎撃は行われませんでした。

しかし、それでも東日本の大部分、群馬県や長野県にまで、Jアラートによるミサイル警報が発表されました。 それは、なぜなのでしょうか。

あの時の起きたことが、弾道ミサイル防衛の困難さを象徴しているのです。

次回へ続きます。


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2017年9月10日 (日)

【ミサイル攻撃の基礎知識04】たぶん、無理。(#1338)

今回のテーマに行く前に、あのことに触れておきましょう。


全然パワーが違う


我が国にとっては原子爆弾(原爆)という言葉だけで忌まわしいものですが、さらに水素爆弾(水爆)までが、遠くない将来に実戦配備されそうな状況です。

ところで、原爆と水爆の違いとは?ざっくりと解説します。

まず原子爆弾とは、ウラン235やプルトニウムなど核物質の原子を『核分裂』させて、莫大なエネルギーを放出させるものです。

そのためには超高温・超高圧が必要なので、核物質を火薬で囲み、中心の一点に向かって爆発させます。これを、エネルギーを外側に放出する『爆発』に対して、『爆縮』と呼びます。

ところがこの方法では、核物質の量を増やしていっても、放出されるエネルギーの量には限界があります。

そこで開発されたのが、水素原子を『核融合』させることで、理論上は無限のエネルギーを放出させることができる水爆です。

しかし、水素原子を『融合』させるためには火薬の爆縮エネルギーだけでは不足です。そこで、小型原爆を起爆装置として、そこで生まれる超高温・超高圧と濃密な中性子線の効果で水素原子の『核融合』の連鎖反応(臨界)を引き起こすのが水爆です。

百万分の何秒という時間内ではありますが、水爆ではふたつの核爆発が起きているわけです。

水爆は、より少ない“燃料”で原爆よりはるかに大きなエネルギーが放出されるために、より小型でより強力な核兵器となります。イメージとしては、原爆の何百倍というエネルギーが、ほとんど同じサイズの、場合によってはもっと小型軽量の兵器から得られるのです。

であれば、北朝鮮が急速度で水爆を開発、実験し、その成果を派手にアピールしている意味もわかってくる、というわけです。


“無力化”は可能か?


ここからが今回の本題。北朝鮮が核弾頭を搭載できる弾道ミサイルを増強するにつけて、いざとなったら先制攻撃してミサイルを“無力化”してしまえ、という論調も存在します。

そのためには、一発も撃ち返されないうちに、すなわちほぼ同時に、すべてのミサイル発射台を潰さなければなりません。

結論から言えば、それはもう不可能です。米国の情報収集力と攻撃能力を以てしても、です。それ以前の問題として、自衛隊にはそのような攻撃ができる装備も、必要な情報を得るための能力もありません。

北朝鮮からの映像を見てもわかる通り、すでに移動式ICBM発射台が実用化されており、その位置は厳重に秘匿されています。

情報収集衛星や無人偵察機などからの情報で一目瞭然というのは素人考えで、相手も見られているのは百も承知で偽装をかけているのです。仮に大半の発射台の位置を把握できたとしても、ひとつでも見落としがあったら、核弾頭による反撃をされる可能性があり、先制攻撃のリスクが大きすぎるのです。

それが、核兵器を保有することの『抑止力』ということでもあります。


アレはあまり使えない?


一方、北朝鮮は潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM Submarine Launch Ballistic Missile)の実用化も近そうです。

SLBMは、仮に国土が全滅しても、命令さえ生きていれば敵に致命的な反撃を加えられる兵器です。しかしそれを実現するためには、潜水艦の位置が完全に秘匿されていなければなりません。

しかし、現時点で北朝鮮が保有する潜水艦は旧式で騒音が大きく、航続距離も長くありませんから、日米韓の警戒網をすり抜けて姿を消すことは、非常に困難と考えられます。

朝鮮半島周辺を含め、世界の主要海域には英米が主体となって運用している潜水艦聴音網(ソーサス SOSUS SOund SUrveillance System)と呼ばれる音響監視ネットワークが設置されており、それをかいくぐり、さらには潜水艦や対潜航空機の追尾を振り切ることは、事実上不可能でしょう。

但し、常識破りの無茶な自殺的、破滅的手段を取れば振り切れる可能性はゼロではありませんが、それはもう最終全面戦争の段階ですから、さし当たって心配することは無いでしょう。


次回は、弾道ミサイルは本当に迎撃できるのか?ということについて考えます。


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2017年9月 7日 (木)

【ミサイル攻撃の基礎知識03】言うほどの脅威ではない?(#1337)

前回に続いて、弾道ミサイルの基礎を考えます。今回は、大気圏突入段階です。


最も困難な段階


弾道ミサイルは、ブーストフェイズでロケットをふかして上昇し、ロケットを切り離してミッドコースフェイズの弾道飛行をしながら次第に高度を下げ、次は大気圏再突入です。

この段階から地表に落下するまでをターミナルフェイズ(terminal phaze)と呼びます。

この段階では、落下角度を非常に精密に制御することが必要です。落下角度が浅すぎれば大気層に弾き飛ばされて突入できず、深すぎれば速度が出すぎて、大気摩擦熱で弾頭が燃え尽きてしまいます。

このため、突入前の最終段階で小型ロケットモーターをふかして正確な方向と角度に制御しなければなりません。これは人工衛星の姿勢制御や、有人宇宙船の大気圏再突入制御と同様の非常に高度な技術であり、それが命中精度も大きく左右します。

但し、原始的な弾道ミサイルではこの制御を行わず、そのまま落下して来るタイプもあり、その場合には再突入に成功しても、目標から数kmから数十kmもの誤差が出ることもあります。

北朝鮮の弾道ミサイルは、複数が発射された場合でも比較的近い範囲に着弾していることが確認されており、それなりの命中精度を実現しているものと見られます。

しかし、キロメートル単位以上での誤差はありますので、現時点では例えば陸上の基地や原発などを直撃できるような精度はありません。戦術的な意味においては、あくまで核弾頭搭載を前提として周囲数kmを破壊できなければ、有効な攻撃とは言えないのです。

しかし、それはどこに落ちるかわからない、もしかしたら核、生物、化学弾頭が搭載されているかもしれない、運が悪ければ人口密集地や重要施設を直撃するかもしれないという恐怖を醸成する、戦略的、政治的な意味合いが大きいものでもあります。

そして、それが弾道ミサイルを保有することの最大の効果、ということができます。


どこまで精度が上がるのか


現代において最高の精度を持つと考えられる米国の大陸間弾道ミサイルは、半数必中界が半径50mと言われます。 これは核弾頭搭載時には全く無視できる誤差で、基地などの施設への直撃さえ可能な精度です。

半数必中界とは、投射型兵器の命中精度を示す指標です。例えば10発発射した場合に、最低でもその半数の5発がその範囲に命中する精度という意味で、CEP(Circuler Error Probable)とも言われます。


なお、米国、ロシア、イギリス、フランス、中国が保有する大陸間弾道ミサイルには、1基のミサイルに弾頭が複数(最大10発程度)搭載されているタイプがあり、それぞれ個別の目標を狙えます。

これは、ミッドコースフェイズの最終段階において、弾頭を搭載した部分(PBV Post Boost Vehicle)を小型ロケットモーターでそれぞれの目標への落下コースへ精密に指向し、一発ずつ切り離して行くという方式によります。それぞれの弾頭は、MIRV(マーヴ Multiple Independent- targetable Reentry Vehicle)と呼ばれます。

これに対し、北朝鮮の弾道ミサイルは現時点では単発弾頭です。しかし、技術的には単発弾頭の方がMIRVより命中精度が上げられるとされており、今後弾頭の小型化と再突入制御技術がさらに向上するとすれば、最終的には半数必中界が50m以下、すなわちほとんどピンポイントに近い精度になる可能性もあるのです。

但し2017年時点においては、まだ発射自体の失敗も発生しており、再突入制御技術もそれほど洗練されてはいないものと考えられます。だからと言って、大した脅威ではないと侮ることもできません。

弾道ミサイル攻撃は、仮に失敗したとしても“どこに落ちるかわからない”ということに、大きな戦略的意味があるからです。

さらには、より多数の目標を狙える、多弾頭タイプのミサイルの実用化も無いとは言えません。 北朝鮮のミサイル技術は、急速に進歩しているのは確かなのです。

次回は、軍事的攻撃で発射を阻止できるかについて考えます。


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2017年9月 5日 (火)

【ミサイル攻撃の基礎知識02】弾道ミサイルってなに?(#1336)

今回は、そもそも弾道ミサイルとは何か?ということについて考えます。


その他はみんな同じ仲間


ミサイルには、大きく分けて2種類あります。

ひとつは、ロケットモーターやジェットエンジンの力で空気中を飛び、翼(空力翼)で自動操縦されて目標に向けて誘導される、誘導ミサイルというタイプ。

大半のミサイルはこのタイプで、空中や地上目標を攻撃するものです。発射される位置と目標によって空対空、地対空、空対地、地対地、地対艦ミサイルなどと呼ばれますが、基本的な原理は一緒です。

我が国で弾道ミサイル防衛のために配備されている、イージス艦搭載のSM3ミサイルや、地上に配備されているペトリオットPAC3ミサイルもこの仲間です。

余談ながら、最近の報道ではPAC3(パックスリー)としか呼ばれなくなりましたが、あれはpatriot(自衛隊では”ペトリオット”と表記)という名称であり、PAC3とはpackage3、すなわち3型を表す型式名です。

航空機迎撃専用のPAC2に、弾道ミサイル迎撃能力を付加したタイプがPAC3といわけです。

また、主にジェットエンジンで長距離を飛行する対地、対艦攻撃用の誘導ミサイル、いわゆる巡航ミサイルというタイプもあり、米国のトマホークミサイルが代表的です。


実はアレと同じ


一方の弾道ミサイルは、我が国にも似たようなものがあります。

弾道ミサイルとは、基本的な技術においては宇宙ロケットとほとんど同じものなのです。要は、宇宙空間まで打ち上げて人工衛星などを地球周回軌道に乗せるためのロケットを、そこまで飛ばさずに重力によって地表に向かって落下させれば、弾道ミサイルとなります。

乱暴に言ってしまえば、先端に人工衛星が乗っているか攻撃用弾頭が乗っているかの違いでしかない、というわけです。

もちろん大気圏再突入のための装備や、そのための制御技術は異なります。でも、基本的には同じものなのです。


『弾道』とはなに?


弾道とは、地球上で空間に物体を射出した際に、重力(加えて空気抵抗)によってしだいに落下してくる軌跡、いわゆる放物線のことです。弾道ミサイルとは、打ち上げられた後に放物線を描いて飛ぶミサイル、というわけです。

野球のホームランボールが描く軌跡がまさに弾道であり、その落下地点は、空気抵抗を無視すれば、打ち出される方向、角度と速度によって決まります。

弾道ミサイルを打ち出す力は、ロケットモーターです。これで宇宙空間にまで打ち上げ、必要な速度に達した段階で方向と角度を制御してロケットモーターを切り離せば、弾頭部は空気抵抗が無く重力も非常に弱い宇宙空間を、弾道飛行をして目標に向かうわけです。

ロケットを噴射する段階(ブーストフェイズ boost phase)を長くすればより長距離に届きますから、数千kmから1万km以上を飛ぶ『大陸間弾道ミサイル』(ICBM Inter Continental Ballistic Missile)は二段式、三段式するなどで搭載燃料を増やし、噴射時間を長くすることで超長距離へ到達させるわけです。

ロケットモーターを切り離し、弾頭部が慣性によって宇宙空間を弾道飛行をする段階をミッドコースフェイズ(mid course phase)と呼びます。

そして、大気圏再突入です。それは次回に。


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