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災害対策マニュアル

2017年3月30日 (木)

【人気記事の補足】もっと効果的に救援を要請するために(#1320)

当ブログは記事数が1300を超えまして、おかげさまで過去記事もかなり閲覧していただいております。

その中で、特に多くの閲覧をいただいている記事について、少し補足させていただきます。


過去記事閲覧数ナンバーワン


閲覧数ランキングの中で、常にトップに絡んで来るのがこちら。

誰でも送れる救難信号とは?

2012年2月の記事ですが、今でも閲覧数が毎月3位前後と、安定した人気をいただいております。

この記事は、手持ちのもので太陽光を反射して救難信号を発する方法について述べたものですが、実はそれよりもっと簡単な方法があるのです。


あれ、忘れていませんか?


災害で孤立した地域の人々が、地面に大きくSOSなどのサインを描いて救援を求める映像を見ることがあります。下画像は、東日本大震災でのものです。
Sos

もしそこに管理人がいたら、それに加えて必ずもうひとつのサインを作ります。

それは狼煙(のろし)

火を焚いて煙を上げる、古代からずっと受け継がれている長距離識別サインです。それを使わない手はありません。

地面にサインを描いただけでは、航空機からはほとんど直上にまで来なければ見えませんし、高高度からではそれでも見えません。 しかし狼煙が上がっていれば、条件が良ければ数十km先の高空からでも目視できるのです。

下画像は、長野県飯田市のお祭りで上げたられたのろしです。小さなものでも、空からはっきり視認できるのがわかります。
Noroshi

特に災害直後には、煙が上がっている場所には、ほぼ確実に捜索救難機が状況を確認しに来ます。

夜間は煙もサインも見えませんが、大きな火を焚くことで、そこに人がいるか、何かが起こっているということが上空からわかるのです。


パイロットにも便利


そのような場合、ヘリコプターでの救援を求めることが多くなりますが、狼煙はそんな場合にも有効です。

ヘリコプターが飛行場外に着陸する時に、判断すべき要素は3つ。進入経路の障害物、着陸する地面の状態と強度、そして風向きと強さです。

着陸地点の近くから狼煙が上がっていれば、上空から地表付近の風向きと強さが推し量れますので、パイロットの判断の助けにもなります。

ただし、ヘリコプターの接近、着陸時には猛烈なダウンウォッシュ(下降気流)が発生しますので、狼煙はその影響を受けない、着陸地点から十分に離れた場所で焚く必要があります。

着陸地点の近くで火が焚かれていたら、接近したら確実に吹き飛ばしてしまいますから、ヘリコプターは進入できません。


災害時以外にも、例えば山中で遭難して孤立した場合でも、狼煙はとても有効です。 森の中にいる人を上空から目視することは困難ですが、狼煙が上がっていれば一発で見つかります。

これは極論ですが、山中で孤立して捜索、救援が望めない時の最後の手段として言われるのが、これ。

山火事を起こせ

そうすれば、必ず誰かが見つけてやってきます。それで助け出されても後がいろいろ大変でしょうが、死ぬよりはマシ、ということで。

火を起こす道具が無くても、例えば良く晴れた日ならば、メガネのレンズと乾いた枯れ葉で火を起こせます。


狼煙の焚きかた


狼煙は、白煙でも黒煙でもOK。ただ、遠距離からの視認性は、黒煙の方が良いでしょう。

白煙を上げるには、火を大きくした後に生木や緑の木の葉を大量に投入します。 樹木が無い場所では、湿らせたダンボールや木材を入れたりしても良いでしょう。

黒煙は、プラスチックやゴム類を燃やします。破壊された車でもあれば、内装類やタイヤなどを外して燃やすのです。車ごと燃やすのは、燃料タンクが爆発する危険があります。

また、タイヤを燃やす際は、タイヤ本体のみで。ホイールごと燃やす場合には、必ず空気を抜いてからでないと破裂します。

どちらの場合も、常に火を焚いておいて、捜索が期待できる段になったら一気に火を大きくして、生木やプラスチック類を投入して濃い煙を上げるのです。


全く余談ですが


狼煙を上げるような状況では、ヘリコプターでの救援を受けることが多いでしょう。

校庭などにヘリポートのサインである、アルファベットのHを丸で囲んだサインを描いているようなこともありました。 下画像も、東日本大震災のものです。
H


ところでこのHサイン、ヘリポートを表すサインであると同時に、ヘリコプターの進入可能方向を示しているのです。 Hのたて棒2本が向いた方向のどちらか、もしくは両方から進入可能である、という意味になります。

もっとも、パイロットが飛行場以外に描かれたHの字の向きをそのまま信じることはなく、周囲の状況を確認してから降下しますので、実際には適当でも心配はありません。

しかし、特に自衛隊などの大型ヘリコプターは重量があるので、広ければどこでも着陸できるとは限りません。下手をすると、地面にめり込んでしまうのです。

そこで、救難ヘリを運用する組織では、災害の際に臨時ヘリポートになる可能性がある、校庭などの地面強度や障害物などを普段から調査していますので、そこはプロに任せておきましょう。

着陸に適さない場所でも大丈夫。救難ヘリは地面スレスレでホバリングしたり、ホイスト(ワイヤーロープ)で人や物資を吊り下げるなどで、必ず助けてくれるのです。

Photo_2
この画像はTVで生中継された東日本大震災の救難シーンですが、陸上自衛隊の大型ヘリが、着陸するだけの強度がない病院の屋上、しかもちょっと傾けばローターがフェンスに触れてしまう狭い場所で、床面スレスレにホバリングしながら救助している、神業とも言えるシーンです。

このような救難技術においては、我が国は世界最高レベルなのです。


■当記事は、カテゴリ【日記・コラム、災害対策マニュアル】です。


2014年9月18日 (木)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル29】水に落ちる前にできること

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回も、自動車で水中に落ちた時の危険を考えます。

ところで、お気付きの方もあると思いますが、ここまで運転者ひとりの場合の対処方法を述べて来ました。でも、実際には同乗者がいることもあります。

その場合の理想的な対処方法は、同乗者それぞれが自ら脱出行動を行うことです。とは言え、現実にはお年寄り、チャイルドシートの乳幼児、泳げない人、恐怖で動けない人など単独で脱出できない人が同乗していることもあります。仮に単独で動けても、最良の対処方法を知っている人の方が少ないでしょう。

それ以前に、運転者自身が最良の行動ができるとも限りません。これは知識だけではどうにもならず、ここで言うような行動が本当にできるのか、管理人も含めてその時になってみなければわからないのです。

しかし、最短時間で脱出するという意識を持ち、必要な装備を備え、チャンスを逃さないという考えがあるだけでも、最良で無くても何らかの行動を起こせる可能性が出て来ます。そのために普段から正しい知識を習得し、”
こうなったらこうする”というシミュレーションを自分自身で繰り返しておくことで、その時に動ける可能性を高めることはできます。


中でも、最も大切なのがシミュレーションです。文章や伝聞の知識だけで満足してはいけません。少なくとも、ご自分の車の中で、実際に身体を動かしてみることです。

視界ゼロを想定し、目をつぶってシートベルトを外し、ドアロックを解除し、レスキューハンマーを取り出し、必要ならばシートベルトを切断できるか。自分ができたら、運転席から同乗者のために何ができるかもやってみます。チャイルドシートは外せるか、どの席のシートベルトを外せるか、子供は車内をどのように移動できるか、同乗者には何と声をかけ、どんな指示をするかなどを、実際にやってみてください。

そうすれば意外に簡単にできることも、とても困難なことも自分の感覚で理解し、身につけることができます。そんな備えが、極限状況での“命の一秒”を稼ぎ出すことにつながるのです。

しかし、やはり車が水中に落ちた場合、確実に全員が『生き残る』方法はありません。ここでは主に静かな水面での脱出を考えていますが、洪水や津波など水の流れが速く、流木や瓦礫が流れて来る中では、車から脱出した後に何が起きるかは、正直なところ考えたくありません。でも、車に乗ったまま沈んだり流されていたら、その結果どうなるかは、過酷な現実が証明しているのです。


車から脱出とは異なりますが、こんなシミュレーション方法もあります。普段の街中で渋滞にはまっている時、ちょっと考えてみてください。「今、私は津波から車で避難している」と。渋滞は動きません。車間は詰まり、Uターンもできません。そこへ、突然目の前の路地から濁流があふれだし、車が真っ黒な飛沫に覆われます。ワイパーを動かしても何も見えません。そして車が流されだし、周りの車や家に衝突する・・・。

それが、現実に起きたことです。

そこまで自分の感覚で理解できれば、『津波の危険がある時は車で避難するな』という言葉の意味が、より重いものとして感じられるのではないでしょうか。

避難するつもりがなくても、大規模地震の直後などは、特に都市部の多くで大渋滞となります。例えば、東日本大震災での石巻市内中心部では、車が全方向に全く動かなくなる、グリッドロックと呼ばれる“超渋滞”状態になり、そのまま多くの車が津波に呑まれました。

その原因のひとつとなったのが、地震の後に大型ショッピングセンターの駐車場から一斉に出てきた多数の車だそうです。そのままショッピングセンターに留まっていれば助かった人も、すぐに移動しようとしたばかりに渋滞にはまり、多くの人が犠牲になってしまいました。

震災後は、だれかを救い出すために車で移動するという行為も多くみられましたが、それが成功したのは、渋滞などの状況が悪化する前の、一部の人だけです。むしろ、その行動が仇となったケースも少なくありません。


そうならないためには、危険が想定される場面では、できるだけ車の中にいないようにしなければなりません。洪水に対しては、気象情報や交通情報をよく確認し、危険が予想される場所では車に乗らないことです。停めてある車を放棄する決断をしなければならないこともあるでしょう。津波が予想される大規模地震後の沿岸部、特に都市部では、車で避難しようとするのは自殺行為だということは、現実が証明しています。

車からの脱出の話からはだいぶ逸れてしまいましたが、私たちが車で水中に落ちるようなケースは、良く考えてみれば、ほとんど洪水か津波しかありません。そして洪水も津波も、事前に予想もできれば警報も出ますから、自分の意思と事前の備えで、その危険の大半を回避できるわけです。

洪水や津波が予想されるときには車に乗らない。乗っていたら、車を放棄してでも速やかに安全な場所へ避難する。そして、それができる備えを普段からやっておく。それが車で水に落ちるという事態を避けて『生き残る』ために、最も確実な方法だと言うことができます。


■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。

2014年9月14日 (日)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル28】水中で何ができるか?

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回は自動車の危険のうち、落水について考えます。具体的には水中への転落、洪水や津波に巻き込まれる危険です。車に乗っていて水中に入ってしまったら、確実に「生き残る」方法は無いどころか、その確率は非常に低いと言わざるを得ません。これは、過去のあまりにも多数の実例が証明する、過酷な事実です。

では、車で落水した場合の死因は何でしょうか。これはほぼすべてが水による窒息、つまり溺死であることに疑いはありません。すなわち、車で落水した場合には、呼吸を維持できるかどうかが、生死の分かれ目となります。

とは言え、車は水よりはるかに重い鉄の箱です。本来ならばあっと言う間に沈みます。比較的静かな水面で、窓が閉まっていればしばらくの間は浮いていられますが、それもせいぜい1分程度と考えるべきです。強い流れの中では、転覆して流れに巻き込まれる可能性が非常に高くなりますが、これは百万言を費やすよりも、現実の映像がすべてを物語っています。

いずれの場合も、車の中が水で満たされた時点で、そのままでは生き残れる可能性はゼロになりますから、生き残るためには、その前もしくは直後に脱出することが、唯一の方法ということになります。

もちろん水深が車高より浅かったり、流れがそれほど強くなければ、車の中にいても生き残れる可能性は出てきますが、それはあくまで受動的な結果に過ぎません。ここでは、あくまで能動的に『生き残る』可能性を高める方法を考えます。

そのためにできることは、車が水中に入った場合には最短時間で脱出する、もしくは脱出できる態勢を作る、ということしかありません。躊躇している時間は全く無いのです。特に、重心が高いミニバンは水に浮いた時点で転覆する可能性が高いので、急がなければなりません。転覆したらガラスが割れて一気に水没する可能性も高く、それ以前に、逆さまの状態からの脱出は困難を極めます。


車から脱出するためには、ドアや窓を開ける必要があります。しかし車のドアは、車体が半分程度、タイヤの高さより少し上くらいまで漬かった時点で、水圧によって開かなくなります。水に浮いた状態では、ドアを開けることはまず不可能です。仮にドアが開けられても、水が一気に流れ込んで来て数秒で水没します。

一気に流れ込んで来る水の力は非常に強く、シートベルトをしていないと、車内で身体ごと吹っ飛ばされるでしょう。そうなれば窓を開けるしかありませんが、水に落ちた時点で車の電気系統が水没していますので、パワーウインドウはまず作動しないでしょう。

そこで必要になるのが、レスキューハンマーです。
Photo
(シートベルト切断用ハサミつきの一例)

既に車内に装備されている方も多いとは思いますが、問題は緊急時にすぐに手に取れる場所にあるかということです。理想的なのは運転席から手が届く場所に取り付けられている状態ですが、せめてグローブボックスの中にでも入っていないと、自分のためには役立てられません。既に備えている方も、トランクや荷室に入れっぱなしになっていませんか?

参考までに、北極圏などで凍った水上を走る車は、レスキューハンマーをルーフの中央につけています。これは前後席両方から手が届くことと、転覆してもすぐ頭上のハンマーがあるので、一瞬で手に取れる位置だからです。いつ氷が割れて氷点下の水中に落ちるかわからない車の、究極の装着位置と言えます。


車のサイドウインドウは、力を一点に集中できる、つまり鋭く尖ったもので強く叩くと、比較的容易に割ることができます。その場合、一気にガラス全体にヒビが入り、小さな破片となって崩れ落ちるように割れますから、一発で脱出口を開くことができるのです。

注意すべきは、窓枠の部分にガラスの破片が残る可能性が大きいので、そのまま窓枠をすり抜けようとすると、皮膚が切り裂かれたり、衣服が引っかかったりします。可能な限り窓枠に衣服などをかけて、怪我を防ぎます。
理想的なのは、車内のフロアカーペットを外して窓枠にかける方法です。もし時間的余裕があれば、対策すべきでしょう。

レスキューハンマー以外でも、鋭く尖った金属ならば他のものでも代用することが可能です。詳しくは別項で述べたいと思いますが、ここでは管理人が常時持ち歩いているものを一つ紹介しましょう。
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長さ12cmの小型バールです。これは以前にも紹介しましたが、むしろ交通事故などで他者を救護するときに、外からガラスを割るのに役立つものです。もちろん、その他にも利用価値は絶大です。使用時には、こんな感じになります。
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その他にも、シートのヘッドレストを抜き取り、鉄製の脚の部分を叩きつけてガラスを割る方法もありますが、脚の先は安全のために丸くなっているので、鋭く尖ったものにくらべて何倍もの力が要ることは知っておかなければなりません。ヘッドレストの脚を使う方法は一部でトリビア的に語られており、不可能ではないものの、実際にはかなり困難なのです。

レスキューハンマーでも、加工不良で先端部が一見してもわからないくらいに丸まっていたため、実際にはほとんどガラスを割ることができずに、回収命令が出た商品もあるくらいです。


窓ガラスを割る場合、水深が窓ガラスより高い位置になっていたら、水が猛烈な勢いで流れ込んで来て、しっかりと身体を保持していないと吹っ飛ばされます。理想的にはシートベルトを締めたまま、しっかりと掴まった状態で車内が水で満たされるのを待つとされていますが、これは訓練を受けた人間でも困難だとも言われます。その恐怖たるや、想像を絶するものでしょう。

そこで管理人としては、やはりシートベルトを外してから、息を大きく吸って、ハンドルやグリップにしっかりつかまり、足を踏ん張ってからガラスを割る方が良いのではないかと考えています。水中でシートベルトを外し、身体に絡まないようにするのは、かなり難しいことだと思います。

車内が水で満たされれば、かなり水の抵抗は受けるものの、ドアを開けることができるようになります。しかし、その時点から車体は一気に沈み始めますから、最短時間で脱出しなければなりません。その時点でシートベルトなどが身体に絡んだら、冷静に外すことなど不可能でしょう。ですから、管理人としてはガラスを割る前にシートベルトを外すことを推奨したいと思います。“一発勝負”ですから、脱出を阻害する要素はできるだけ排除しておかなけばなりません。

その後のことはマニュアル化できるものではありませんが、とにかく、そのままでは死に至る可能性の高い、一つの大きな危機から脱出する方法ということです。


ところで、ここまでにドアロックの事は述べていません。最近の車は電動集中ドアロックが主流なので、水中では作動しないものと考え、脱出までにそれぞれのドアの手動用のロックノブを解放しておかなければなりません。実は自動ドアロックの方式には二種類あります。それは“走行中にロックするか、しないか”というもので、国やメーカーによって考え方が違い、国産車でも統一されていないのです。

まず、主流である米国式。これは一定の速度を超えると自動的にドアをロックし、乗車中はロックされている方式です。これは、米国では信号停車中に車に乗り込まれるような強盗犯罪が多いので、それを防ぐためという発想からです。

一方で、乗車中には自動ロックしないのがヨーロッパ式。これは、事故発生時の脱出や、車外からの救助活動の障害にならない事を最優先に考えているものです。管理人の知る限りですが、国産車ではスバル車がこの方式です。我が国にはこちらの方が向いていると思うのですが。

なにしろ、ご自分が乗る車がどちらの方式であるかを知り、緊急時には手動でドアロック解放の必要があるかどうかを、普段から意識しておくことが大切です。その知識ひとつが生死を分けることも、十分に考えられるのです。

次回も自動車での落水について考えます。

■再掲載に当たっての追記(2014,9,14)
車のドアロックは、最近は新しいタイプが出てきています。基本的には記事で述べた米国式、つまり一定速度以上で自動ロックされるものの、事故などで強い衝撃が加わった場合、自動的に開放されるシステムです。しかし、落水や強い水流に流されたくらいの衝撃で開放されるとは限りませんし、水で電気系統がショートする可能性が高いので、やはり自分でロックノブを開放することを考えておくべきです。


■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。


2014年9月13日 (土)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル27】停まってからも怖い!

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回は車が『停まってから』の危険について考えます。

前回は、大地震発生時に車を停めるまでについて述べました。今、あなたの車は左路肩に停まったところです。左路肩に停めるのは、言うまでもなく緊急自動車が通行するために、本線を開けるのが目的です。

ただし、高速道路の盛り土区間では、路肩が崩落することもあります。実際に震災直後の東北自動車道では、路肩の崩落があちこちで発生していました。ガードレール、ガードロープ、防音壁などが完全に崩れ落ちるほどではありませんでしたので、車ごと土手から転げ落ちるようなことは無いでしょうが、タイヤがはまって動けなくなったり、大型車を横転させるくらいの段差は普通にありました。

また、盛土の下を道路や水路などが交差している、短いトンネル状の構造物(分類上は橋であり、カルバードと呼ばれます)がある部分では、周囲が沈下しても筒状のコンクリート構造物はほとんど沈まなかったため、路面に大きな段差が生じていました。

これが一般道だと、盛り土区間や崖沿いではさらに大きく崩落することも考えられます。車を停める際には周囲の状況を良く見て、高い崖の上や下、路面に大きなヒビが入っている場所、切り通し区間、橋や高架の真下などは避けなければなりません。とは言うものの、そのような障害が発生するのは今まさに揺れている最中ですので、相当シビアな判断になります。でも“可能な限り”そうすべきです。


さて、路肩に車が停まった後も、しばらくは追突の危険から逃れられません。必ず“おかしな動き”をする車がいるはずです。それがドライバーの意志か否かは別にして、動いている車があるうちは、突っ込まれる危険が常にあります。

そこで、停止した直後にやるべきことは、車からの脱出です。停まったら周囲、特に後方をすぐに確認します。この場合はミラーではなく、身体と首を回して目視し、より広い範囲を確認します。


安全が確認できたら、同乗者と一緒にすぐに車外に出て、速やかにガードレールの外へ出ます。車の周りをうろついていたら意味がありません。余計に危険なだけです。ガードレールやガードロープをまたぐのは、特に子供、女性、お年寄りには難しいものですから、補助も必要でしょう。その時ドライバーは周囲を警戒し続け、危険があれば同乗者に知らせます。それがドライバーの役目であり、責任です。

そして自車や周囲の車に衝突されても安全が確保できそうな場所で、しばらく待機です。上記のような状況にご自分がいると考えて、目を閉じてイメージしてみてください。


そこで皆様に質問です。皆様のイメージの中で、「雨降ってますか?」

多くの方が想像されたのは、最悪でもせいぜい寒い夜くらいのイメージだったのではないでしょうか。もし暴風雨、暴風雪の闇夜とかをイメージされていたら、あなたは危機管理の達人です。“最悪の状況”を自発的に取り入れることができる。そしてそのように視界が悪い時ほど、追突される可能性が高まっているということをも忘れてはないりません。

本題からは外れますが、イメージの中で“雨を降らせない”心理こそが、危機管理の敵である『楽観バイアス』や『正常化バイアス』と呼ばれる心理状態です。ある危険を想定したとき、さらに起こりうる危険を積極的に除外してしまうのです。わかりやすく言えば、「まさかそこまでは」、「そんなこと起こるはずが無い」、「あり得ない」などと根拠も無く考えてしまう心理状態です。その究極が、何の根拠も無い「自分だけは大丈夫」という奴なんですが。

人は、自分がひどい目に遭うことを本能的に想像したくありません。だから、恐ろしい事を考える時に、積極的に危険を矮小化し、無意識のうちに精神の平静を保とうとしてしまいます。それが上記のような心理状態なのですが、しかしそんな個人の考えなどお構いなく、現実は襲いかかって来ます。

その時、“正しい想定”や“覚悟”が出来ていなかった人ほど、想像を超える状況に直面してパニック状態に陥りやすくなるわけです。つまり、生き残る確率を自ら下げることに等しい。だから勇気を振り絞って、イヤな気持ちを乗り越えて、“最悪”を考えてください。


本題に戻りましょう。では、車を脱出するときに悪天候だったらどうするか。出がけに雨が降っていたら傘を持っているでしょうが、そうで無いこともある。ならば、用意しておくのです。

一番手軽な方法は、ビニールカッパやポンチョを『乗車定員分』車内に備えておくこと。グローブボックスでも、シートポケットやドアポケットに放り込んでおくだけです。トランク内でも良いでしょうが、できるだけ短時間で取り出せるようにしておきたいものです。これなら今日からでもできますね。

さらにグラウンドシートやブルーシートがあれば、より広い用途に応用できます。それでも数百円の負担です。いずれ、管理人がセレクトした車内装備も公開したいと思います。【管理人註:文末に該当記事をリンクします】


これが役に立つ状況は、やはり滅多に遭わない大地震よりも、高速道路上でのパンクや故障など普段の運転中の方がはるかに多くなります。何らかの事情で高速道路上で停まらなければならないときは、とにかく絶対に車外の安全な場所に出ていなければなりません。

時々、流れの良い高速道路の路肩に、それも夜間に人が乗ったまま停まっている車を見かけますが、あれなど自殺行為に近いものです。ハザードランプつけていれば大丈夫とか思っていませんか?

恐ろしい事実をひとつ。ドライバーが半分居眠りをしていたり、深い酒酔いなどで正常な判断力を失っている場合、車はドライバーが“見た方向”へ行きます。無意識にそのように操作してしまうのです。つまり、高速道路上にぽつんと停まった車は、そんな最も危険な車を自ら引き寄せているんですよ。ハザードランプなどその誘い水になるくらいです。

高速道路上でパンク修理をしていて突っ込まれるような事故も後を絶ちませんが、他に車がいないのになんでそこへピンポイントで突っ込んで来るかというと、実はそんなメカニズムがあるのです。


地震から話が逸れてしまいましたが、これも普段からの意識と行動があってこそ、大地震の時にも速やかに安全を確保できるのです。まとめますと、普段でも大地震の時でも、高速道路や流れの速い道路で路肩に停止するときは、安全が確認されるまでは車外へ出て、ガードレールの外など安全な場所で待機、これが絶対であり、その時のための防水装備は、常に車内の取り出しやすい場所に備えておく必要がある、ということです。

次回も、さらに自動車の危険を考えます。

■自動車内に常備する防災グッズ関連記事
自動車に備えるEDCグッズ01
自動車に備えるEDCグッズ02
自動車に備えるEDCグッズ03
自動車に備えるEDCグッズ04
自動車に備えるEDCグッズ05
自動車に備えるEDCグッズ補足

■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。

2014年9月 9日 (火)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル26】突っ込んでくる!

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回は、自動車運転中に大地震に遭遇した場合の、追突の危険について考えます。特に高速道路では、この危険が最も大きなものと言って良いでしょう。

前前回記事では管理人が高速道路上で緊急地震速報を受信した時のエピソードを記しましたが、その時は皆が申し合わせたような見事さで、一斉に減速しました。しかしあれは走っている車の8割方がプロドライバーで、しかも余震が頻発している震災被災地を走行中という特殊な状況でもありました。

実際には、そんな状況は滅多に無いでしょう。現実的な問題は、ほとんどの場合に『ドライバーそれぞれの判断と行動が異なる』ということです。走行中に緊急地震速報の受信や強い地震を感じた時、多くのドライバーの頭の中には、まず急ブレーキをかけずに減速し、ゆっくりと左路肩に停車するという『知識』が浮かぶはずです。

ところがそこで本当に停まるべきなのか、“ゆっくり”がどの程度なのかというだけでも、ドライバーごとに判断が分かれます。さらにパニック状態に陥って頭の中が真っ白になってしまったり、強い揺れや道路の変形などで車のコントロールを失ってしまうこともあり得ます。

そんな状況の中で安全に停止し、その後も完全に無事でいることはかなり困難であるということを、まず認識していなければなりません。『ゆっくりと左に寄せて停まる』とだけお考えだった方、それだけでは生き残れないかもしれませんよ。


ここでは高速道路や郊外の流れの速い道路の場合を中心に考えて行きますが、大地震発生時に安全に停止するための方法として、ふたつの段階に分けます。まず最初は、減速から停止までの段階です。

緊急地震速報を受信した段階ですぐに停止しようとするドライバーは、あまり多くは無いでしょう。まずは減速して“様子を見る”と思います。しかし、停まる人も皆無では無い。慌てて急ブレーキを踏むドライバーもいると考えなければなりません。最初の段階では、まず自分が前の車に追突するリスクを避けなければならないわけです。

最悪の場合は前方で事故が発生し、進路が塞がれるかもしれません。そこで最も大切になってくるのが、車間距離の確保です。まず直前での急減速を警戒し、それが無ければハザードランプを点灯して前の車より高い減速度を保ち、できるだけ車間を開けるのです。もちろん、バックミラーで後方を確認しながらです。

この“減速しながら後方を見る”という行動はベテランドライバーには当たり前なのですが、普段からやっていないといきなりできる事ではありません。これは高速道路に限らず市街地でも必要なことです。まだやっていない方は、今日から常に意識してください。特に高速道路や流れの速い道路では、停止・減速時には必ず後方確認しながら車間を開けるのです。


これは滅多に遭わない大地震時よりも、むしろ渋滞の後尾につく時にこそ必要な行動です。でも実際には、前方が渋滞している時にハザードランプをつけて減速はするものの、前車と一気に車間を詰めてしまうドライバーが大半ではないですか?後続車が突っ込んで来たら、逃げ場無いんですよ。うしろが大型トラックだったらどうしますか?

それ以前にバックミラーで後方を見ていなかったら、突っ込んで来る車にさえ気付きません。自分と同乗者の命を見ず知らずの後続ドライバーに委ねるなど、管理人はゴメンですね。


普段でも渋滞後尾への追突事故は絶えないのに、さらにそれが大地震時だったらどうなるでしょうか。判断の迷い、パニック状態、急ブレーキでのスピン、接触、道路の変形や陥没によるコントロール喪失など、後続車が突っ込んで来る理由には事欠きません。それでもあなたは、前だけ見ていられますか?

もちろん見ているだけではダメです。前車と十分な車間があってこそ、初めて能動的に危機から脱出できるのです。普段から、渋滞の後尾に付くときに上記のような行動をすることは、大地震時の予行演習と言っても過言ではありません。それが、追突から『生き残る』方法なのです。


では、どれくらい車間を取れれば良いのでしょうか。これは管理人の運転経験からの判断ですが、例えば前方が完全停止、路肩など本線上から逃げる場所が無い、後続車がいないかはるか後方という条件だったら、最低30mは開けていないと不安です。これはあくまで最低で、できれば50mは欲しいところ。常に最悪の条件を想定し、この場合は大型トラックがノーブレーキで突っ込んで来ても車線を移動して回避できる、場合によっては路外に飛び出してでも回避できる余地を残しておきます。

そしてバックミラーで後方を見ながらハザードランプはもちろん、管理人はブレーキペダルを断続的に軽く踏み込んでブレーキランプを点滅させ、後続車への注意をより強く促します。そして後続車が渋滞に気づき、ハザードランプをつけて十分に減速し、うしろに停まるまでを見届けるのです(その時、十分に車間を開けて停まる車は滅多に見たことありませんが)。

ではそれで安心かというと、まだなんですよ。その後の車が突っ込んで来たら、玉突き追突を食らいます。管理人は後方に10台程度の車が並ぶのを確認してから、ゆっくりと前進して前車との車間を詰めます。それでやっと一息です。

これは平常時の追突事故対策ですが、大地震発生時にはさらに“不測の事態”が起こる可能性もあります。例えば自車の直前で道路が陥没して、回避する場所が無くなるとか。その場合でも、管理人なら大型トラックに突っ込まれるよりは、道路の穴に落ちる方を選びます。その他にも考えればいくらでも”とんでもない”状況が考えられますが、あり得ないとか大袈裟すぎるというようなことが実際に起こるから、大災害なのです。


まとめますと、大地震で緊急停止する場合には、後方を十分に確認しながら減速し、できるだけ車間を確保すること。そのためには、普段から渋滞後尾で停まる際はもちろん、街中でも『停止・減速時には後方確認』の習慣をつけておく必要があるということです。繰り返しますが、普段やっていないと“本番”では絶対に無理ですよ。

この方法は大地震対策以前に、普段の運転でのリスクを大きく減らしてくれます。是非実践していただきたいと思います。

次回は、『停まってから』の危険について考えます。


■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。

2014年9月 5日 (金)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル25】何が落ちてくるかわからない!

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回は大地震時における自動車の危険のうち、落下物について考えます。

走行中に強い地震を感じたり、緊急地震速報を受信した場合は、基本的には急ブレーキをかけず、しかしできるだけ短時間で十分に減速するか、車を道路左側に寄せて停める必要があります。

停止させる時の問題は、『停まる場所が安全か』ということです。例えば、看板類が鈴なりの繁華街、ガラス面積が大きな建物の直前、橋や高架の真下、建築現場の足場近く、切り立った崖や斜面の下、鉄骨や重機などの重量物を載せたトラックの横や後などに停まると、落下物の直撃を受ける可能性が高くなります。老朽化した建物の近くだったら、倒壊に巻き込まれることもあります。

そして前記事で触れた通り、自分の車にとって脅威となる、つまり自分の車に当たるものが落ちてくる“真上”は、車の中からは全く見えません。真上から何か落ちてきても、車にぶつかるまで気付かないのです。気が付いた時には手遅れ、ということも少なく無いでしょう。


ではどうするか。それは“停まる前”の判断にかかっています。高速道路はトラックの荷崩れ以外の落下物に関しては比較的安全ですが、一般道には上記のようなありとあらゆる危険があります。それらの危険を、減速して停止するまでの間にできる限り見極めなければなりません。車の中からでも、前上方は見えるわけです。周囲の状況が許せば、すぐに停まらずに走り抜けることが必要なこともあるでしょう。

しかし既に激しく揺れていたり、大地震が来るかもしれない緊張の中で前や周囲を見て停止場所を探しながら、同時に前上方も確認などできるはず無い、とお思いの方もあると思います。その通り、とても困難なことであり、誰にでもすぐにできることではありません。上ばかり見ていたら、前の車に追突してしまうでしょう。

でも、下手な場所に停めて落下物に押し潰されるのは、あなたと同乗者なのです。そのリスクをどれだけ真剣に考えられるかということです。ですが、もちろんそんな理屈だけで解決できる問題でもありません。


そこで必要になってくるのが、普段からの意識です。車を運転しながら、「いまここで大地震が来たら」という意識を忘れず、街を観察するのです。普段からあの看板は落ちそうだ、あの建物は倒れそうだ、あの崖は崩れそうだという視点で街を見ていれば、いざという時に他の場所でも短時間で危険を見出すことができるようになるはずです。普段から、“危険を知る”のです。

気の荒そうな大きな犬がいたら、誰でもその犬には近づきませんよね。それは犬に噛まれたら痛い、大けがをする、下手をすれば殺されるから怖いと知っているからです。それと同じように街の危険要素を普段から見られるようになれば、無意識のうちにその危険を避ける行動ができるのです。


ちなみに、管理人は運転中に重量物や重機を積んだトラックの類には近づきません。後ろに付く時も、車間を大きく開けます。交差点などで隣に並ぶことも、出来る限り避けます。もし走行中や停車中に大地震が来たら、積み荷が落ちて来るかもしれないからです。地震でなくても、荷崩れや重量物の落下による事故は後を絶ちません。停車中にどうしても並ばなければならない時は、強い地震を感じたらすぐに反対側のドアから脱出することを考えています(管理人の車はベンチシートのミニバンです)

その他にも、例えば満載のダンプカーから石ころが落ちてくる、雪がまとわりついた大型車の床下から大きな氷の固まりが落ちてくるというようなことは、ごく普通に起きます。バイクでは、冬の高速道で氷塊の落下を何度も食らいました。ライダーにとっては、すぐに命に関わる問題です。その感覚がクルマに乗るときにもあって本気で怖いと思っているから、無意識のうちに離れてしまうのです。同じように、繁華街の鈴なりの看板など、恐ろしくて仕方ない。

そんな意識を普段から持っていることが、いざという時の素早い判断に繋がります。皆様にも、普段からそんな視点で街を見ながら、歩いたり運転したりすることをお勧めします。それがあなたの『生き残る』力をアップするのです。


まとめますと、車で走行中に強い地震を感じたり緊急地震速報を受信した時は速やかに減速を始め、同時に周囲、特に前上方と左右方向に自分の車を押しつぶしそうな危険が無いかを確認します。もしあれば、その場所から慌てずに離れる、ということです。もちろん、もし何かが倒れ掛かって来つつあるのを見つけたりしたら、周囲の状況によりアクセル全開という選択肢もありますが、それが成功するかどうかは、普段からの意識にかかっているのです。


最後に、もし車の中で落下物の直撃を受けてしまいそうな場合の、最後の対処方法について。

まず、可能ならば車外に脱出すべきですが、それが間に合いそうも無い場合には『頭の位置をできるだけ低く』することです。何トンもある鉄骨類や重機、巨大な岩などの直撃ではなく、看板類や足場などの衝突程度ならば、多くの場合、車の屋根部分が潰れるくらいで済むことが多いでしょう。つまりそこから下、具体的にはダッシュボードの線より下に潜り込めば、頭部を直撃されて致命傷を負う可能性がかなり小さくなり、生存空間も残りやすいのです。

その方法はいろいろ考えられますし、車体や身体の大きさによっても出来る方法が変わりますので、皆様それぞれの方法をお考えになってみてください。チャイルドシートを卒業したくらいの子供ならば、床に伏せてしまうのがベストでしょう。その際はもちろんシートベルトを外すことになりますので、停止状態か微速走行中の話です。

次回は、『追突』の危険について考えます。


■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。

2014年9月 1日 (月)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル24】緊急地震速報!その時クルマは?

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回から、車に乗っている時に大地震が来た時の対処方法を考えます。最初は、乗用車を運転している場合です。

一般的に言われる対処方法は、運転中に強い地震を感じたら、急ブレーキをかけずにゆっくりと減速して、道路左側に寄せて停止しろ、というものです。特に高速道路を走行している時は、強い揺れでハンドルを取られてコントロールを失うことがあると言われます。

確かに、それは間違いではありません。しかしそれだけででは不十分と管理人は考えます。上記は、あくまで自分の車を安全に止める方法でしかありません。実際には、自分の車がコントロールを失う以上に大きな危険があります。

それは、落下物と追突。例えば繁華街を走っている時に強い地震を感じてすぐに路側に停車した場合、近くの建物などからの落下物の直撃を受ける可能性があります。ガラスくらいなら車は有効なシェルターになりますが、大きな看板や重い壁材などが落ちて来たら、車の屋根など簡単に潰されます。問題は、車の中からでは、自分の車に脅威となる真上が全く見えないということです。


また、周囲がすべて冷静なドライバーばかりだとは限りません。中には、パニックを起こしてアクセルを踏み込むような人がいるかもしれません。そんな車が乗用車ならまだしも、大型トラックだったとしたら。もちろん大型トラックのドライバーはプロですから、パニックを起こすような人は少ないでしょう。しかし、問題は重さです。重い車はすぐには止まれません。

特に高速道路では、大型トラックが激しい揺れや道路の変形などで一旦コントロールを失った場合、軽い乗用車のようにすぐに修正が効きません。そのまま路肩に止まった車列や渋滞の後尾に突っ込んで来たり、横転するような状況も考えられます。

積荷の危険もあります。東日本大震災では、大型トレーラーに載せられた巨大なコンクリート管が激しい揺れで落下し、対向車線の乗用車を何台も押しつぶしました。このように直前や真横を走るトラックからの荷崩れは、致命的な結果を招きます。直撃しなくても、荷崩れを発見して急停止したら、後ろから突っ込まれる可能性が非常に高い。そのような危険を回避した段階で、初めて一息つけるのです。


そんな危険回避のためには、まずできるだけ早く地震の発生を感知する必要があります。早い段階で危険回避行動に移れれば、それだけ“自分の意志で”状況をコントロールできる可能性が高まるのです。

そのために有効なのが、緊急地震速報です。私事ながら、管理人は震災二ヶ月後から何度も福島へ入りましたが、道中の東北自動車道上で、二回ほど携帯電話の緊急地震速報を受信しました。

時間は深夜で、時速80~100kmでスムーズに流れています。走っている車は物資輸送の大型トラックが8割、その他も被災地支援に向かう車がほとんどです。大きな余震が多発している時期でしたから、ほとんどのドライバーに“覚悟”ができているという、ある意味で特殊な状況です。

そこで緊急地震速報が発報された時の様子に、正直なところちょっと感動しました。見事なものだったのです。

管理人の車は時速90kmほどでトラックの間にいました。そして発報を受け、すぐにハザードランプを点灯してアクセルを抜き、何度か軽くブレーキを踏んで、本線上で時速50km程度までゆるやかに減速しました。これは減速のためでもありますが、ブレーキランプを点滅させて、減速の意志を後方の車により強く伝えるという意味もあります。もちろん前の車との車間と、バックミラーで後の車の動きを確認しながらです。すべてのドライバーが緊急地震速報に気づいているとは限りません。

すると、ほとんど車間が変わらないまま、車列全体が自然に減速しました。つまり、周辺のすべてのドライバーが携帯電話やラジオで緊急地震速報を受信していたか、そうでなくても周囲の車の動きを見て状況を察し、すぐに現実的に安全と思われる速度まで減速したのです。そして減速しながら、前の車との車間を少しずつ開けて行くことも忘れていません。

時速40~50km程度ならば、その後相当強い地震が来ても数秒以内に路肩で停止できますし、道路の変形や高架の落下などがあっても、かなりの確率で回避できます。震災直後という特殊な状況ならではかもしれませんが、それが高速道路上での理想的な対応だったのではないかと思います。

結果的に、二回とも走行中にはほとんど感じられないくらいの地震でしたので、一分ほどそのまま走行したあと、車列は何事も無かったようにスムーズに再加速して行きました。この時ほど、ドライバー同士の“以心伝心”を感じたことはありません。

もしここでハンドルを取られるような強い地震が来ていたら、各車は車間を維持したまま、一斉に路肩に停止したことでしょう。これが、8割方がプロドライバー、しかも震災被災地走行中という中での、最も現実的で安全な対応ということができるでしょう。しかし、普段はそんな“好条件は”なかなかありません。それについては後述します。


さておき、こんな対応ができるのも緊急地震速報のおかげです。ですから車に乗っている時は、スマホ、携帯電話かラジオなどで、必ず緊急地震速報を受信できる体制にしておくことをお勧めしますし、もしそうでなくても、周りの車が不自然に減速し始めたら、とりあえず大地震の発生を疑い、すぐに周囲を良く見ながら減速するという意識を忘れないことが大切だと思います。

自動車運転中の緊急地震速報の有効性はおわかりいただけたかと思います。次回からは、様々なケースの具体的な対処方法について考えます。


■当記事は、カテゴリ【災害対策マニュアル】です。


2014年8月28日 (木)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル23】飛行機の危険

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回はシリーズの主旨と少し異なりますが、飛行機に乗っている時に大地震が発生した時の対応について触れてみたいと思います。

飛行機の場合、個人でできる対策はあまりありません。基本的には係員の指示に従うことになります。ただ、どのような対応が行われるかを知っておくだけで、混乱しないで済むでしょう。


まず、飛行機が地上にいる時に、強い地震に遭った場合です。大規模な地震の場合、実際の揺れ以上に機体は激しく揺れるでしょうが、機体が大きく破損することは無いでしょう。地上走行をしている時ならばすぐに停止しますから、まずは揺れが収まるまでシートベルトを外さずに、床に足を踏ん張ってしっかりと身体を保持します。

オーバーヘッドストウェッジ(頭上の荷物棚)が開いて重い荷物が落ちてくるかもしれませんから、両腕で頭をかかえ、首に力を入れて縮め、衝撃に備えます。できれば、シートの背もたれよりも頭を低くして、落下物の直撃をできるだけ避けるようにします。

揺れが収まったら勝手に動かずに、落ち着いて客室乗務員の指示を待ってください。場合によっては、その場で機外へ脱出する必要があるかもしれません。


空港は海沿いにあることが多いので、地震の際に懸念されるのはまず液状化です。もちろん十分な対策が施されてはいますが、水や砂の噴出など多少の影響を受ける可能性はあります。このため機体がそこから動けなくなったりするかもしれませんが、いかなる場合も係員の指示に従うことです。

海沿いの空港の場合、津波も懸念されます。東日本大震災における仙台空港の惨状は記憶に新しいところですが、係員はそのような場合の避難誘導の訓練も受けています。とにかく勝手な動きをせず、落ち着いて指示に従ってください。


管理人が最も危険だと考える状況は、着陸直後でまだ高速のうちに強い地震に襲われるケースです。その場合、最悪の場合は滑走路逸脱やオーバーランにつながる可能性があり、その場合は激しい減速ショックが襲いかかります。

その場合、首がむちを打つように振り回されることによる頚椎損傷、頭が前のシートに叩きつけられることによる打撲や顔面骨折、シートベルトが腹に食い込むことによる内臓損傷、足が跳ね上がって前のシートにぶつかることによる膝や脛の損傷が考えられます。頭上の荷物が落ちてくることもあるでしょう。

それに対処するベストの方法は、不時着時に取る耐衝撃姿勢です。しかしこの場合、客室乗務員の指示はほとんど間に合わないでしょうし、仮に指示があっても、心構えがなければとっさに身体が動かないでしょう。対処できる時間は、おそらく数秒以下しかありません。

ですから、特に着陸時はいつでも自分で耐衝撃姿勢を取れるような心構えが必要です。地震でなくとも、滑走路逸脱が絶対に無いとは言えません。もちろん耐衝撃姿勢がどんなものか知らなければ問題外ですので、飛行機に乗る際は各席に備え付けられた「安全のしおり」(セーフティ・インストラクション)や機内放送を必ず見て、耐衝撃姿勢や脱出方法を確かめ、自分の周りの非常口の位置を確認してください。

滑走路逸脱の場合は、高い確率で脱出シュートを使って機外に脱出することになりますが、機外の状況によっては別の非常口を指示されることもあります。その場合もあわてないように、自分の周りの非常口をすべて確認しておくのです。その行動だけで、緊急時にパニックに陥らずに済む心理的効果も大きいのです。

なお、離陸滑走中に大地震を感じ、機長が離陸中止の判断をした場合、通常ならば滑走路内で停止できるはずなのですが、場合によっては滑走路逸脱や停止し切れずにオーバーランしてしまう可能性もあります。ですから、地震に限らず、離陸滑走中に急激なブレーキがかかった場合も、自主的に対衝撃姿勢へ移行するべきです。


次に、飛行中に大地震が来た場合です。言うまでも無く乗客にできることはありませんし、何もする必要はありませんので、ちょっとトリビア的なことなど。

飛行中に目的地の空港が大地震に襲われて閉鎖されたら、すぐに安全な代替空港へ行き先が変更されます。出発地へ引き返すこともあるでしょう。仮に、本来の飛行予定時間より長い時間飛ぶことになっても心配ありません。燃料は十分に積んでいます。

例えば羽田-千歳線であれば、羽田-千歳間を一往復半くらいできるほどの余裕を持って燃料が積まれていますから、国内線であれば、どこでも燃料切れの心配はありません。国際線でも、燃料が少ない機体から優先的に下ろしますので、事実上心配ありません。


ここで、ウソのような本当の話をひとつ。東日本大震災では、史上初めて成田と羽田が同時に閉鎖されました。混雑する大空港ふたつが同時に使えなくなったのですから、大混乱です。

その時に両空港に向かっていた機体は、国際・国内線合わせて約70機。そのすべてを他の空港に下ろさなければなならなくなりました。特に遠距離を飛んで来た国際線は、国内線ほど燃料の余裕がありません。

国際線に多い747やA340などの大型機は、滑走路が長い大空港にしか下ろせませんし、着陸後の駐機スペースも必要です。それらの要素をすべて勘案しながら、必死の管制が行われました。

結果的に、すべての機体が千歳、米軍横田基地、中部国際、県営名古屋、関空、伊丹やその他の地方空港に無事下りることができましたが、実はこの神業的管制業務の裏に、まさに神がかり的な事実があったのです。

従来は成田と羽田が同時閉鎖するという事態は具体的に想定されていなかったのですが、関東で大地震が起これば、高い確率であり得ます。そこで具体的な対処計画が作られ、管制官の合同訓練が行われていました。

その訓練が行われたのが、なんと震災前日の3月10日だったのです。

もちろんその訓練をしていなくても、全機をさばく能力はあったでしょう。でもよりスムーズに、安全に管制が行えたのは確かです。

緊急事態を想定した訓練の翌日に、突然本番がやってくる。それも想定した関東地震ではなく東北の巨大地震ですから、代替となるはずだった仙台はじめ東北の各空港が使えないという、より厳しい条件で。

良くも悪くも、こんなことが起こるのが現実の世の中です。これなど、まさに常に備えておくことの大切さを象徴するような出来事ではあります。


次回からは、自動車での危険をお送りします。


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2014年8月24日 (日)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル22】最後まで手を離すな!

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。

鉄道編は今回までとなります。

前回までは、通勤電車が脱線するような状況で、いかに身体を守るかについて考えて来ました。実際の車内では、さらに厳しい状況があります。

前回記事の耐衝撃姿勢は身体が壁や地面に衝突する際にはかなり有効ではありますが、改めて典型的な通勤電車の中を見てみましょう。
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当然ながら、このように手すり、シートの側板、背もたれ、荷物棚などが林立しています。車両によっては、通路の真ん中に手すりが立っている車両もあります。

そしてそれらのパイプ類が、吹っ飛ばされた人間の身体に最も大きな損傷を与えるのです。もちろん正しい耐衝撃姿勢を取ることでその程度を軽くできる可能性はありますが、根本的な解決策とはなりません。

そこで最も大切なことは、車両に大きな衝撃が加わった場合、できる限り身体の移動距離を小さくすることと、圧縮される力を弱めることです。身体の移動距離を小さくするには、手すりやつり革にしっかりつかまること、シートの側板などに身体をつけてしっかり保持することです。つまり衝撃を受けた場合に、どれだけ衝撃と逆方向の力をかけられるかということです。

最終的にはつかまった手を振りほどかれるにしても、出来る限り握り続けることで、吹っ飛ばされる際の『初速』を下げることができます。実はこれが非常に重要で、何かに衝突した際の衝撃荷重は速度の二乗に比例しますから、例えば速度が半分になれば衝撃は四分の一になり、身体の損傷度合いを確実に小さくできます。

さらに、衝撃をできるだけ小さくするために重要なのが、『編成のどこに乗るか、車両内のどこにいるか』ということです。ここでまたJR福知山線事故の画像をご覧いただきましょう。この事故は、100km/h以上の速度で脱線転覆するという、在来線の単独列車事故としては最悪に近いケースです。
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ここで注目すべきは、鉄道車両は大抵先頭車両から脱線が始まり、衝突、転覆する可能性も前の方が大きいということです。脱線した中間車両が対向列車に衝突するという、2000年に中目黒駅構内で発生した地下鉄日比谷線脱線事故のような例もありますが、あくまでレアケースです。余談ながら、あの事故では当時の取引先の方が亡くなってしまい、管理人も集まった報道陣に写真撮られまくりながら通夜に行きました。


さておき福知山線事故でも、7両編成の後尾3両は、脱線せずに線路上に留まっているのがわかります。つまり、それだけ車両にかかる衝撃力が小さかったということであり、負傷者も編成後方へ行くほど少なくなっています。

この例に限らず、過去多くの鉄道事故を見ても、編成の後ろの方ほど脱線・転覆する可能性が小さいということは確かです。通勤電車程度の速度では、例えば10両編成の全車両が脱線することなど、高架橋の崩落など極端なケースを除いて事実上ありません。

そうなると、どこへ乗ればより安全性が高いかわかってきます。編成のできるだけ後方、車両の中ではできるだけ進行方向の逆側ということになります。また、障害物が少ない通路上は『人のなだれ』が一気に発生するので、できればドア付近の方が良いと考えられます。しかし、ドア付近では手すりやシートの側板に衝突する危険が大きくなりますので、一概には言い切れません。進行方向側のシート側板にしっかり身体をつけ、手すりを握っていられるようならば、ドア付近が良いと言えるでしょう。

これまで述べたことから、確率的に最も安全な乗車位置は編成最後尾の車両の、最も後ろのドア付近ということになります。その場所が車両が脱線・転覆する確率が最も低く、仮に脱線しても衝撃が最も小さく、線路外のものに衝突する可能性も小さく、車内では『人のなだれ』に最も巻き込まれずらい場所ということになります。

と、わかっていても、“鉄っちゃん”はつい最もハイリスクと考えられる先頭車両の運転席直後に張り付いてしまったりするのですがwまあ、これが at your own risk という奴ではあります。


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2014年8月16日 (土)

☆再掲載☆【対災害アクションマニュアル21】胎児のようになれ!

■当記事は過去記事の再掲載です。内容は加筆修正しています。


今回は、満員の通勤電車の中で大地震に遭遇した場合の対処方法について考えます。

大前提として、その時の安全性は何両目に乗っているか、車両内のどこに乗っているかに大きく左右されますが、それについては後述します。

まず基本は、立っている場合にはできるだけつり革や手すりにつかまることです。地震の激しい揺れと非常ブレーキの急減速程度までならば、人の圧力で手をふりほどかれる可能性は高いものの、それでもある程度までは身体を保持できるでしょう。

普段の満員電車でも、ちょっときつめのブレーキで乗客がドドドっと前方に押し寄せることがありますが、高速からの非常ブレーキの減速度はあれをかなり上回ります。結果的に手をふりほどかれるにしても、できるだけ長い時間、身体を保持する努力をすることです。

非常ブレーキ程度の減速度ならば、『人のなだれ』も致命的な圧力になることは無いでしょう。つかまる場所が無い場合は、両腕を胸の前に強く引き寄せて、こぶしを握ってぐっと力を入れます。これで、胸部が直接圧迫されることを防ぎます。転びそうになっても、上方以外に腕を伸ばしてはいけません。人に挟まれて、へし折られる可能性があります。


電車が脱線した場合は、さらに強烈な減速ショックに加え、たて方向の衝撃が加わります。車体が飛び跳ねるように暴れるのです。その段階ではほぼ確実につかまった手をふりほどかれ、さらに身体が飛び上がって、前方に向かって『吹っ飛ばされる』可能性が高くなります。満員の乗客は、強烈に圧縮されます。

その状態から、最悪の場合は車体が転覆したり、どこかに衝突する可能性があります。そうなると、確実に身を守る方法はありません。できることは、致命的な衝撃から少しでも身を守る可能性を高めることだけです。


107名が死亡したJR福知山線脱線転覆事故で、マンションの一階に横転しながら突っ込んだ一両目に乗っていて生還した方の手記によれば、横転した瞬間の車内は『洗濯機の中のようだった』とのこと。つまり人がバラバラと舞い上がり、飛ばされ、かき回されたのです。

地震で通勤電車が脱線した場合は、100km/h以上で横転したあの事故ほどの状態にはならないと思われますが、満員の乗客がなだれのように崩れ落ち、のし掛かって来るでしょう。その状態で、自分の身体の位置や衝突を意識してコントロールすることは、全く不可能です。

余談ながら、そうなったら『頭を打たないように気をつけろ』とか寝言を言っている“防災のプロ”がいるのですが、それについては別に記事書きますね。

では、そこでできることは何か。管理人が考えるポイントは二つ。『遠心力』と『重心』です。


人体の重心は腰の辺りですが、そこから一番遠い場所に、重い頭が乗っています。ですから人体が吹っ飛ばされると腰を中心に回転して頭がむちを打つようように叩きつけられ、頭と首に大きな衝撃が加わります。さらにその状態では、意識して力を入れていないと、遠心力で手足が伸びてしまいます。そこまで行かなくても、減速ショックが加わると重い頭が慣性力でいちばん大きく振り回されるわけです。

もうひとつは車体の重心。鉄道車両の重心は、大ざっぱに言えば床の辺りです。つまり床を回転の中心にして揺れ、横転するのです。

そして前記事で述べた通り、人体で一番断面積が大きく、圧迫されると窒息に至るのは胸の部分です。

それらのことから管理人が導き出した耐衝撃姿勢は以下の通り。本来なら図解したいのですが、絵心が無いもので文章で表現することをお許しください。

その姿勢を一言で表現するなら、ちょっと違うけれど「胎児のようになれ」ということでしょうか。
■両手のこぶしを頭の両側につけて、腕に力を入れて身体に密着させる。
■首を前に曲げて思い切り縮め、力を入れる。
■両足を揃え、膝を曲げて重心を落とす。(感覚的には身長を50cm縮める感じ)
■息を大きく吸って止め、全身の筋肉を緊張させる。

両腕で頭の側面をガードし、首に力を入れてむち打ち状態を防ぎ、身体の重心を車体の重心に近づけて横回転の遠心力を弱め、減速ショックで重い頭が振り回される慣性力も弱めるのです。手足を縮めて緊張させることで、伸びた手足が挟まれて折られる可能性も減らせます。

さらに胸の位置を下げることで、乗客の圧力による胸への圧迫を弱めます。これは、スシ詰めの電車でもランドセルを背負った小学生が乗っていられるのと同じことです。下半身の高さは、実はかなり余裕があります。人の圧力で重心を下げられない場合は、上半身だけでもこの姿勢を取るべきです。

その状態で電車が止まれば良し、吹っ飛ばされてどこかに衝突したり、人のなだれにのし掛かられたりしても、致命的な怪我を負う可能性を大きく減らせるはずです。

なお、この姿勢は軍用パラシュート降下の着地時の姿勢(軍用は民間用より高速で着地するので、着地と同時にこのような姿勢で転がって衝撃を逃がさないと足が折れます)や、オートバイで転倒した時に、最初にとるべき姿勢に近いものです。

管理人はオートバイに乗りますが、かつてはロードレースやオフロードレースもやっていまして、こんな姿勢で何度も地面に叩きつけられた経験があります。その経験からしても、有効な姿勢だと考えます。つまり、管理人なら迷わずこの姿勢を取ります。


しかしこの姿勢にすぐに移行するためには、普段から意識していないとなかなか難しいものがあります。オートバイの初心者が転倒すると、つい地面に腕を伸ばして身体を支えようとしてしまうことがありますが、もちろん何の効果も無くて、あっさりと腕を折ってしまいます。

交通事故のような凄まじい衝撃の中では、人間の力など全く無いに等しいのです。ですから、吹っ飛ばされることを前提として、少しでも衝撃を減らすことを普段から意識していなければなりません。なのに『頭を打たないように気をつけろ』とかお気楽なことを言う“プロ”もいるからやりきれない。カネ払って話聞いて、そんな出来もしないこと言われたらどうします?


なお、ここではスシ詰めの電車内を想定していますが、もし空いている電車内で大地震に遭遇し、脱線転覆しそうだと判断したら、『両腕で頭を守りながら床に伏せる』、これに尽きます。まずは床に膝をついて重心を下げ、脱線すると判断したら、可能ならば進行方向と逆方向に身体を投げ出すのです。これは椅子に座っている時でも同じです。

最後にもうひとつ、“お笑いプロ”(お笑いのプロじゃない)の話。腕で頭を守るときには、動脈を切らないように手首の手のひら側(脈拍を取る部分)を内側に向けろと、テレビでしたり顔で言っていた“防災のプロ”がいましたが、どうやったら外側向けられるか教えて欲しいw。これなど、『動脈を守る』というもっともらしい自分のアイデアを言いたいがために、必要の無い“指導”をしているだけですね。おカネもらうには、そういうことも必要なんですか?ねえYさんw

まあ、こんなのばかりじゃ、防災屋はいつまで経っても尊敬どころか信用もされませんな、などとぼやきつつ、次回は、電車のどこに乗るべきかについて考えます。


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